ポタラ宮殿

 いよいよチベット入り。4月15日、午前10時、ラサ行きの飛行機に乗り込み11時30分ラサ着。途中、機内 からチョモランマを眺めたが飛行機とほぼ同じ高さにチョモランマの山頂があり、自分がほんとうにあの頂に立ったのかと信じられなかったと同時に、今からあ そこにゴミ掃除に向かうかと思うと、こりゃ大変だといまさらながら実感してしまった。

 ラサでの生活はとても快適でチベット登山協会から我々についた担当ガイドがツェートンという22歳のチベッ ト人女性であった。この彼女の可愛らしい笑顔に皆、ただただ見とれっぱなしであった。日本を発ち、早半月、野口隊のメンバーは女性と接することなくトレッ キングなる高所トレーニングに追われていた。そしてこれからチョモランマ遠征が始まってしまえば、それこそ女性とは無縁になる。そんなタイミングで美しい チベット人セートンが我々の前に突如現れた。どこか気持の中で暗いものが溜まっていたが、男とはこれほどまでに単純な生き物なのか、彼女の出現で気持が スーと晴れ、それは私に限ったことでなく岡田さんや村口カメラマンの表情からも読み取れた。そのことから我々は彼女のことを「太陽」と呼ぶことにした。決 して大袈裟ではなく我々にとっての「太陽」であった。

 ラサ滞在期間中はポタラ宮殿、デブン寺、大聖寺等の見物を行い、夜は3日連続してディスコ通いであった。ラ サの夜はチベットの都市とは思えないほどに、繁華街が賑わい目のやり場に困ったり、思わず誘惑に負け、暗闇な路地裏へと導かれそうになる。我々はおおいに 踊り、久しぶりの二日酔いを楽しみ、少々破目をはずし、人間らしい生活を満喫したのである。

 18日、チベット登山協会から夕食を招待され、チベット登山協会の会長であるガーさん、チベット体躯協会の 会長さんらと今回のチョモランマ清掃登山についてお話を行った。ガーさんも体躯協会の会長さんもこのチョモランマ清掃活動には大歓迎で、結局この場でチ ベット登山協会が我々の活動に協力してくれることが決定した。チョモランマの清掃登山隊は歴史上初めての試みであり、以前から清掃隊の話は出ていたもの の、誰も行動に移したものはいない。そして今度の我々の行動がきっかけけとなり、チベット登山協会が動き出した。8月にラサでアジア諸国の山岳会の会議が 行われるが、そこでも今回のチョモランマ清掃登山の報告を行い、来年行なわれるチョモランマ清掃登山を、日本、韓国、中国、台湾、パキスタン、インド、そ して北朝鮮、などアジア諸国へ輪を広げていくことが私の念願であり本望であり、本来の目標でもある。このチベット登山協会が協力を申し入れてくれたこと が、その国際清掃登山隊への1つの可能性を示してくれたように感じ、感慨深いものがあった。

 チョモランマは世界最高峰であると同時にアジア大陸最高峰でもある。そのアジア大陸最高峰にアジア諸国の登 山隊による残留物が散乱している。アジア諸国の人間の手によって、アジア最高峰を美しい姿に戻さなければならないように私は強く感じる。そして、地球環境 への取り組みもまた、時の流れである。

 私はラサで時代の移り変わりをひしひしと感じていた。

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