この度、以前からの体調不良が悪化し緊急入院となり、多くの方々にご迷惑をおかけ致しました。病名は出血性胃炎と自律神経失調症です。無事退院となりましたが、特に何件もの講演の予定があり、あまりにも急な出来事でお知らせが間に合わず、会場にいらした方々にはお詫びの言葉が見つかりません。
 7月下旬から体調不良が続き、何回か病院に通ってはいましたが、原因が分からないままヒマラヤ8000m峰無酸素挑戦が始まりました。しかし、自然は甘くはありません。体調不良をごまかしながらの登山はあまりにもあっけなく、無残な結果で幕を下ろしました。

 それから、体調回復に努めてまいりましたが、なかなか思うようにいかず、以前より決まっていた講演会などの仕事が始まりました。旅の途中で何度か繰り返された下血にショックを受けながらも、講演会場では多くの方々が私の話しに一生懸命耳を傾けてくださりホッと救われた思いでした。大人用の紙おむつを着用してでも、なんとか、最後まで頑張ろうと心に決めておりましたが、下血からくる貧血がついにはごまかせないところまできてしまいました。
 私の講演のテーマは「生きる」です。今にも倒れそうな私がいくら「生きる勇気」などと訴えても自分の言葉に責任が持てない。それは言葉のみで偽りになってしまいます。お尻から血を流しながら、命を削りながらも講演活動を続ける自分の姿がいかにも情けなく無様で、それでいて自己矛盾を抱えたまま偽りを話なさなければならない自分が許せなくなりました。なによりも難しいのが自分を許すことです。
 講演会場に向かう電車のトイレで下血が始まり、驚きを隠せないまま座席に戻りましたが、その時車窓から八ヶ岳連峰が見えました。何度も登ってきたはずの八ヶ岳がこの時ばかりはやけに大きく見え、もう自分には到底手の届かない存在になっていくように感じられたのがなんともいえないショックでした。
 どうするべきか、悩みました。本当に悩みました。涙を流しながら「入院して!」と私に迫ってくれた仲間達がいなければ、私には入院の決断はできなかった。そのままお尻から血を流しながら偽りをしゃべらなければならなかったはずです。

 私の講演を一年前から企画して下さっていた関係者の方々には下げる頭もありません。しかし、この入院で肉体的また精神的に驚異的な回復に向かっています。心身共に回復させ、今後の活動でみなさんが納得してくださる活動を展開していくことが、私に課せられた責務だと自覚しております。まだまだ完治には時間がかかりますが、来年のエベレスト清掃活動までには、必ず万全な体勢で最後のエベレスト清掃登山に向かいます。
 自身に課した課題は清掃登山だけではありません。これからも全国の子供達と共に自然との共存について考えていきたい。我々大人はこの美しい地球の資源を次世代に残す義務があります。その為にも自然を守っていく社会的なルールを作らなければなりません。今年からスタートしたシェルパ基金もあります。
 私にはやりたいこと事が沢山あります。しかし、体あっての活動です。アルピニストとしての自分と環境問題を社会へ訴える自分との狭間でその両立の難しさから、バランスのとり方を見失っていました。アルピニスト野口健があってこそ初めてエベレストの清掃活動が実現し、そこで私自身が感じた事を講演活動等でみなさんにお伝えしてきたわけですが、活動の部分とお伝えする部分との二本の柱が連携していなかった。
 アルピニスト野口健の部分があまりにも粗末でした。自身の経験、力を過大評価していたのかもしれません。その焦りがシシャパンマへのチャレンジになりましたが、既にアスリートとしての肉体や精神力もなく、アルピニストの肩書きを名乗る事すら重く圧し掛かっていた状態では単なる無謀登山でしかなかった。
 アルピニスト野口健として一日も早く回復しこれら自身が掲げた目標に向かって全力投球します。
 私のわがままで多くの方々にご迷惑をおかけしました事、深く深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。

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