ヒマラヤでの活動中、僕の登山服の襟には、いつもお守りがついている。
1997・98年とエベレスト登頂を果たせなかった。帰国したら「また失敗した」と世間の風当たりは冷たい。そんな時、母校の先輩との出会いがあった。白山比咩(しらやまひめ)神社の神職を務める寺本義弘さんだ。背水の陣で挑んだ3度目のエベレスト。日本をたつ直前に寺本さんから同神社のお守りを頂き、精神的な支えとして身につけていた。すると3度目の正直で、なんとかエベレストに登れた。
帰国後、お礼参りとして石川県白山市にある同神社を訪れ。神社と白山とのかかわりを知った。白山は富士山などと三大霊峰の一つであり、日本で最初に清掃登山を始めたのがこの神社。山崎宗弘宮司とも会い、宮司が話された「自然を敬う心」とは何かを知りたく今年の9月、白山を登った。
寺本さんに案内してもらいながら山頂を目指したが、驚いたことにすれ違う登山者の大半が地元の方々だった。そして「ようこそ白山へ」「よく来てくださいました」と声をかけてくる。「ようこそ白山へ」。とてもすてきな表現じゃないですか。あいさつが多い山はゴミが少ない。こんなに故郷に愛されている山は初めてだ。
そして徹底されたゴミ持ち帰り運動。通常は自分達が持ち込んだゴミに対しての持ち帰り運動だが、白山は山小屋で買ったものも含めた持ち帰り運動。山小屋の主は「県外から来る登山客がゴミを捨てる。でも、それを地元の登山者がすぐに拾うから捨てる人も捨てられなくなる」とのこと。
9月4日、白山最高峰の御前峰(2702㍍)に登り、雲海のかなたのご来光を拝んだ。日の出とともに他の登山者と一斉に「バンザイ!」三唱。雲が黄金に染まり神秘的だった。
欧米人登山家はよく「征服」「制覇」するといった開拓的な言葉がよく使うが、自然には崇拝や感謝の気持ちが大切だ。日本人は山の神、海の神を敬い、自然と共に共生してきた。その心をゼロから作るのは困難だが、そもそもあったものを取り戻すのは可能だ。白山では霊峰のあるべき本来の姿に触れ、日本人の源郷をそこに見た。
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