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アジア・太平洋水サミット , 地球温暖化 , 対談・会談 , 氷河湖・水環境

アジア・太平洋水サミットに向けて  ブータン王国・キンザン・ドルジ首相との会談

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2007/10/21

アジア・太平洋水サミットに向けて  ブータン王国・キンザン・ドルジ首相との会談

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キンザン・ドルジ首相と

 10月16 日、ブータン王国に向かった我々一行(野口健・藤村健)はまずタイのバンコクへ飛びそこでドゥク・エアー(ブータンに唯一乗り入れているブータン航空)に 乗り換え、バングラデシュの首都ダッカ、インドのガヤをそれぞれ経由し、パロ国際空港(ブータン王国)にたどり着いた。パロ国際空港着陸時は圧巻で、山肌 ぎりぎりを何度も旋回する情景はまるで鳥が獲物を求めて旋回しているような感じだった。

 登山を志した者ならば誰しも「いつかはブー タンに」という憧れを抱く。ブータンはヒマラヤ山脈南側にあり、北はチベット、南はインドに挟まる。標高200㍍の亜熱帯密林が広がるインド国境地帯か ら、ブータン最高峰のガンガルプスム峰(7541㍍)などの7000㍍の山々が連なる北部山岳地帯まで、大自然の宝庫である。ブータンではヒマラヤの頂な どは神仏の座として信仰の対象になっており、人間が汚すことは禁じられている。自然の存在を擬人化し、「神」もしくは「もののけ」と捉えているという。そ のため、ガンカルプンスム峰は登山禁止となっていて、いまで足を踏み入れた者はいない。

 登山家として、もうほとんど残されていない 7000㍍級の未踏峰には冒険心がうずく。同時に、ツアー登山などで商業化され、心無い登山家達が捨てた大量のゴミが象徴するように大衆化された世界最高 峰・エベレストの姿に辟易してきただけに、未知の世界が手つかずで残るブータンにロマンも感じていた。 ブータン王国は人口約67万人、国土は九州とほぼ 同じ面積38,394k㎡。首都ティンプーには約7万人が生活をし、国民の約7割が農業従事者である。国内総生産の約50%をインドの借款で建てられた水 力発電で補い、病院の診察料は一般的にタダ。

 首都ティンプーへはインドの支援により整備 された道がひたすら続く。そのブータン・インド友好道路も来年の民主化に向けてか?更なる整備に追われていた。なぜ、インドはブータンの道路建設に積極的 なのか?と尋ねたところ、これにはインドの対中国戦略が大きく関わっているとの事であった。緊迫するインドと中国の間にブータン王国があり、ブータンがそ のクッション役になっているようだ。

 山間部特有の段々畑が広がり、刈り取った稲を束にして地面に叩き付けながら米を集める農民たちの姿が妙に印象に残った。それらの情景は一昔前の日本を思い出させる懐かしい景色でもあった。なんとなく私の好きな佐渡島的なんだなぁ~

 ティンプー市内は、それなりにきれいに整備 されており、入国制限をしている国だけあって物乞いがいない。旅行者には一律一日200ドルのビザ代の支払いが義務付けられる。この制度のおかげ?で他国 から貧富層が入ってくることができなくなっている。この高額なビザ代は1つの選択肢として理解できるのが、ネパールでは麻薬などを求めた多くのヒッピーら がたむろし、おかげでネパールの少年たちに悪影響を及ぼしている。学生の頃、ポカラという湖畔にある美しい保養地に出かけたが、せっかくの優雅な保養地に ヒッピー達がハシシー(麻薬)に酔ったのか到るところでボケーと昼間からラリっていた。もちろん、全てのヒッピーがそうであるとは限らないが、ただあの姿 が脳裏に焼き付いているだけに私にはどうしてもヒッピーに対して一種の違和感の類を抱いてしまう事は否定できない。一日200ドルの徴収となればヒッピー 達には極めて非現実的な世界となり入国してこられないだろう。あのポカラでの光景はこのブータンには似つかわしくないと、事実上の入国制限には大賛成。そ もそもブータン社会は鎖国していただけに、外国人による秩序の乱れを懸念しているのだ。

 昼食後、一端ホテルにチェックインし、スー ツに着替えてから「アジア・太平洋水サミット」の趣旨や重要性などのご説明とご挨拶を兼ねて外務省の二国間局長に面会するために国会議事堂に向かった。 1994年に南アジア地域協力連合(SAARC)の会議場兼オフィスとして建設された国会議事堂はまるで王宮のような稟とした雰囲気のたたずまいで内部は 鮮やかな装飾と宗教画で飾られ魔術的な静けさはまるでポタラ宮殿のようだった。

  ブータン王国は世襲君主ワンチュク家によ る王制国家。国王は内閣を任免し、国会議員の一部や高等裁判所の裁判官の3分の2を任命するなどの絶対的な権力をもっていた。しかし、1998年の政治改 革以降、国王は行政権を放棄し、国家元首の地位に留まるが、閣僚の任命権を国会に委ね、立憲君主制への移行を進めてきたとのこと。来年は君主制から民主化 に移行され建国100周年式典、内閣の発足および、第5代国王の就任式が速やかに行われる予定。そして歴史上、初めての総選挙が行われる。

  ブータンには20の県があり、本年12月には上院議員選挙が行われ、各県1人の計20名の上院議員が誕生する。また、来年の3月までには下院議員47名が 決定し本格的な民主政治が始動する。ちなみに下院議員は20の県から各2名ずつ選出され、残りの7名は人口の多い県に割りふられる。

 現在は暫定政権で3人の大臣が10ある省庁 の大臣を兼務している。首相は常に大臣を兼務している。歴史的にブータンが変革していくこの時期に果たして首相もしくは担当大臣が「第一回アジア・太平洋 水サミット」に参加してくださるのだろうかといった懸念を抱きながらまずは外務省・二国間局長のウォンディ氏との会談が始まった。



  ウォンディ局長は「私は日本が大好きです。現皇太子殿下、また秋篠宮殿下同妃殿下もブータンにはお越しいただいています。私は昭和天皇の大喪の礼にブータ ン国王とともに出席しました」と親日派であった。そして驚いたのが「泣かぬなら泣くまで待とうホトトギスの家康の発想が好きです。草履を懐に温めていた秀 吉も好きです」と日本の歴史に話が弾んだ。そして肝心のアジア・太平洋水サミットに話が及ぶと「ブータンも氷河湖の決壊により大きな被害を受けています。 ヒマラヤの流域国が集まって会議することには大変意味がある。野口さんのアイディアには大変共感します。しかし、私たちにとって12月は時期が良くない。 なにしろ初めての選挙があり、未経験なだけに予測がつきません。通常の時期ならばこのような意味深いサミットに首相が参加しますが、今回はどうなるでしょ うか?」
 
  ウォンディ局長との会談は一時間以上にも及んだが、氏のような知日派をどう確保していくか、特に国際会議になれば重要だろう。場合によってはキンザン・ド ルジ首相と同行してサミットに参加されるかもしれないし、もしいらっしゃらなくてもキンザン・ドルジ首相や環境副大臣(ブータンには環境大臣がいないので 環境副大臣が事実上の環境大臣)に色々と助言されるだろう。

  そしてウォンディ局長との面会後、キンザン・ドルジ首相との会談が始まった。10月16日、国会議事堂の迎賓室にてブータン王国のキンザン・ドルジ首相 (H.E. Lyonpo Kinzang Dorji,Prime Minister of the Royal Government of Bhutan)と16:25~16:50迄の約25分間会談をおこなった。

 先方出席者は儀典長および二国間局長。当方は私とスタッフの藤村健、そしてJICA主席駐在員の矢部哲雄氏、在インド日本国大使館一等書記官の坂田尚史氏。

 冒頭、キンザン首相から「野口さんの登山家としての経歴に敬服しています。そしてそれ以上に、ヒマラヤでの清掃活動などの環境保護活動を行ってきたその心意気に敬服します」とありがたいお言葉を頂いた。それにしても私の活動を細かくご存じあった事に驚いた。
(以下のやり取りは同行の藤村氏による記録)

野口

「アジア・太平洋地域での2001年~2005年の水関連災害による年平均死者週数は年平均約6万人にのぼり、世界全体の80%を占める。その被害の中に はヒマラヤの氷河の急激な融解による洪水も含まれています。このような観点から、私はアジア・太平洋水サミットにおいて、融解する氷河とそれにできる氷河 湖対策を取り上げるようにアジア・太平洋水フォーラム事務局と協議を重ねてまいりました。今回の第1回アジア・太平洋水サミットの優先テーマは「水インフ ラと人材育成」、「水関連災害管理」、「発展と生態系のための水」の3つ。私はこのテーマの1つである「水関連水害管理」において「氷河と気候変動」の分 科会を開き、氷河湖問題を取り上げたいと考えています。

ヒマラヤから溶け出した水がネパール、ブータン、インド、バングラデシュを通り抜けベンガル湾へと流れ出す過程の中で、その流域国が被害を受けています。 その4カ国一同がサミットの場で協議し共同声明を世界に発信し具体的な対応策に取り掛かりたい。サミットには大きな意味と可能性を感じています。」

キンザン首相

「昨年、3月に第4回世界水フォーラム(メキシコ)で開催されたアジア・太平洋水フォーラムの宣言の場に私も、公共事業大臣として出席していた。このアジ ア・太平洋地域での水サミットの重要性は十分に理解をしている。氷河の後退および氷河湖の決壊は我々にとっても脅威である。1994年10月7日にルゲ・ ツォ氷河湖の決壊により下流のプナカは多大なる被害を受けた。木材を含む土石流はプナカのゾンの基礎部分を潰すだけではなく多くの工事関係者の命を奪っ た。我々は現在、ネパールにあるICIMOD(国際総合山岳開発センター)とも連携を取りあい、氷河湖の対策を検討している。」

野口

「このまま温暖化が続けば2035年にはヒマラヤ中の氷河がなくなるとのデータも出ている。UNDP(国連環境開発計画)及びICIMOD(国際総合山岳 開発センター)は2001年当時の記録としてネパールは3,252の氷河と2,323の氷河湖があり、5年から10年の間に20以上の氷河が決壊する恐れ があると報告しています。貴国でも氷河が融解してしまえば、氷河の溶け水で電力をおこしている水力発電にも影響が出る。このアジア・太平洋水サミットは単 なる会議では終わらさない。現在、日本の大学などの研究者が熱心に調査を行っているが、十分な調査費があるわけでもない。また各機関がそれぞれ個別に調査 しており、まとまったデータが乏しい。まずはヒマラヤの氷河がどのように変化してきているのか徹底的に調査をする必要がある。このサミットをきっかけにヒ マラヤの氷河全体を調査するための予算取りも視野に入れて、議論をしていきたい。そして決壊しそうな氷河の湖水を抜く作業を行わなければならない。そし て、サミットの場において温暖化による影響は海面上昇のみならず、氷河等の山にも影響が出ていることを世に知らしめるきっかけとしたい」

キンザン首相

「ブータンは水が豊富で、水力発電により国のすべての電力をまかなっている。また水力で発電した電気を隣国のインドに売っている。ブータンの国家予算の大 よそ6割にあたる。したがって氷河を失えば私たちはエネルギーを失う。また、電力はすべて水力でまかなっており、そのおかげで暖をとるために木を切る必要 がなくなった。ご存じの通り、ネパールではその大半の森林が伐採された。おかげで土砂崩れの被害が増えた。現在ブータンは国土の72%が森林である。この 森林の今後の存続を重視し、我々は憲法によって国土の森林60%保護することに決めた。そして国土の26%強を森林保全区にしている。(アジア平均が4・ 26%、世界平均は5・17%であるからいかにブータンが森林保全に力を入れているかがわかる)」

野口
「閣下が今、お話頂いたような事例は隣国であるネパールやインド、バングラデシュ等に影響を与えるものである。ぜひ、アジア・太平洋水サミットの場におい て、貴国の行動を各国に知らせて頂きたい。来年の民主化にともなう選挙や建国100周年、王位戴冠式等、非常に重要な時期だというのも承知している。その 上で、是非ご出席をお願いしたい。」

キンザン首相

「時期的に非常に難しい。私が参加できるかどうかはまだ分からない。しかし日本はブータンにとって友好関係の深い国である。現皇太子殿下、秋篠宮殿下ご夫 妻もお越しいただいたことがある。昨年、日本の皇太子殿下のお誕生日での記者会見で皇太子殿下がアジア・太平洋水サミットに出席されると自ら発表されたと 聞きました。このアジア・太平洋水サミットに対する日本サイドの強い情熱を感じています。水フォーラムは、ブータンにおいても非常に重要である。厳しい時 期ですが、しかるべき人材を派遣します」

 翌日の10月17日は国家環境委員会副大臣 のナド・リンチェン副大臣(環境大臣が不在のため、事実上の環境大臣)と会談を行った。副大臣は「ブータンは水力発電によってその電力をインドに輸出して おり、電力収入は国家財政の45パーセント、いま建設中のもう2基が完成すれば100パーセントに達成する。氷河湖の決壊が続けば水力発電所に大量の土砂 などが流れ込み機能しなくなるだろう。そしていずれ氷河がなくなれば深刻な水不足になる。地球温暖化はブータンにとっても存亡の危機です」「1994年 10月にルナナ地方にあるルゲ・ツォ氷河湖が決壊して、プナカでは多くの人々が犠牲になった。氷河湖の問題はエネルギー問題から国民の生命財産を守る上に おいても避けて通れない」とキンザン首相同様に氷河湖対策に対する思いは強かった。

  「現代ブータンを知るための60章」 (平山修一著)によると2001年時点でブータンには2674個の氷河湖があり、そのうち24の氷河湖の危険度が高 く、決壊による洪水が懸念されているとのこと。またJICA調査団の調査結果では通常、氷河湖というものは、永久凍土のようなものでダムのようにせきとめ られていて、湖の決壊を防いでいる。しかし、調査したすべての氷河湖の湖底土壌の温度は、通常マイナスのところがすべてプラスの値を示したそうである。つ まり、いつ決壊してもおかしくない状態なのであると報告されている。

 この半年間でネパールのコイララ首相、イン ドのソズ水資源大臣、バングラディシュのモティウリ・ラフマン水資源大臣、そして今回のキンザン首相、ナド・リンチェン環境副大臣、ウォンディ二国間局長 との会談を行ってきたが、そこから見えてきたのはどちらも地球温暖化の影響であろう深刻な被害にさらされ危機せまっていることだ。日本にいるとよく「地球 温暖化」といった言葉は耳にするが、実際に身の危険を直接的に感じることが少ない。いや、まったく感じない人の方が多いだろう。地球温暖化のリアリティー を感じないまま言葉のみが独り歩きしているようだ。5月のチョモランマ登頂から12月のアジア・太平洋水サミットに向けて忙しく飛び回ったが、やはり現場 に来ないと見えてこないものがある。

 そしてこの短い期間に4カ国全ての首相や担 当大臣と会談を行えたこと、これはアジア・太平洋水サミットに向けて大きな意味を持つだろう。後は国内での調整がどこまでできるのか、まずは12月3~4 日に開催されるアジア・太平洋水サミットに向けて、次に合意に取り付けるまで精一杯頑張りたい。そして今回のブータン訪問では外務省、そしてJICAの多 くの皆様のご協力があって初めて実現しました。本当にありがとうございました。

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