2009年マナスル清掃登山 , 自己責任と危機管理

2009/05/16

ベースキャンプ撤退

いつでも判断は難しい。5月に入り連日の大雪。そしてキャンプ1に設置したテントは2メートルほど雪に埋まりポールは砕け完璧に破壊されていた。キャンプ1でこの状況ならばキャンプ2はまったく期待できない。我が隊に限らず多くの隊がテントと装備を失った。
ベースキャンプ最後の写真
ベースキャンプ最後の写真
 キャンプ2に荷揚げした装備の回収も検討されたがシェルパから「雪崩のリスクが大きすぎる。私たちには家族がいる」の一言が響いた。ちょうどそのころ、前回のマナスルで我が隊のシェルパであったラクパ・ヌルブがエベレストのアイスフォールで氷河の崩壊に巻き込まれ遭難死したニュースが届いた。遺体回収も不可能であった。嫌なタイミングであった。

5月中旬まで登山活動を中止し、雪の状態が落ち着いたら(早くとも20日以降だろうと推測された)再開することも考えられたが、5月中旬にはモンスーン(雨季)がやってくる。そうなればさらに天候が不安定になる。そして前回のマナスルの経験からすれば20日を過ぎれば氷河が緩みセラック(氷の塊)の崩壊が多発する。

バタバタと撤収作業に入る
バタバタと撤収作業に入る

様々な判断があるだろう。粘るのも1つの方法。パッと見切りをつけるのも1つの方法。人生いろいろ。冒険家もいろいろ。人それぞれである。判断の分かれ目となるが、生涯最後の挑戦とあれば大きなリスクを背負ってでも続ける意味もあるでしょう。しかし私の冒険人生はこれからも続く訳で、私はそのような見方はしていない。臆病風に吹かれたと言われればそれまでかもしれない。また力不足を指摘されればまたその通りかもしれない。反省材料があったことも否定できない。まだまだ甘い。それら全てを受け止めてみて、確かに悔しいが、また戻ってくればいいではないか。チャンスは必ずある。

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 5月13日、森田健作千葉県知事とのテレビ会談を行い、撤収作業開始。酸素ボンベなどキャンプ2に荷揚げし、雪に埋まり回収出来ていない装備は約100万円相当であったが、我々の身代りになって頂いたと解釈すれば大きな問題ではない。ただ我々が撤退してしまえばその装備はゴミとなる。次回戻ってきた際はその分だけ、いやそれ以上のゴミ回収を行うことお約束しますのでお許し頂きたい。
森田知事とのテレビ会談
森田知事とのテレビ会談

解釈によってはマナスルの女神に酸素ボンベをプレゼントしたことになるのかな?

 ベースキャンプを後にする時、振り返りマナスル山頂を見上げたが相変わらずの雪空でなにも見えず。しばらく山頂付近を眺めていたが、コレヒドール島脱出時の挫折感または敗北感とは比較できるはずもないが、私なりの「アイ・シャル・リターン」を心に誓っていた。

 「近い将来、必ず戻ってくる。それでいい」と自身に言い聞かせるかのように、何度も何度も繰り返し呟きながら、そして山頂を目指している時と同じように、「一歩一歩」サマ村へ向かって下った。


2009年5月14日 サマ村にて 野口健

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