『万死に一生』著者・柳井乃武夫さんと
ヒマラヤ・マナスル峰から帰国し、間もなく二ヶ月。早くもあの生き死にの世界で、必死に生きていた生活が恋しい。ヒマラヤにいた時の方が、遥かに厳しい環境だったのに私にはヒマラヤでの生活の方が日本にいるときよりも楽なのか、肉体面は別として少なくとも精神的にはとても健康。ヒマラヤでの生活は確かに厳しいけれど、要はいかにその日を生き延びるか、日々を精一杯生きているだけで、実にシンプルだ。
ヒマラヤには通信機材を持ち込んでいるので、日本の情報もそれなりに入ってくるが、タレントの誰々が公園で全裸になって逮捕されたとか、小沢代表が辞任したとか、まあ~ハッキリ言って、どうでもいいようなニュースばかりで、特にヒマラヤなんかにいますと、「日頃の情報がいかにもくだらないなぁ~」と感じる。
最近ではどこかの県知事が「私を総裁候補としてお戦いになるお覚悟はありますか」とお恥ずかしい限りの勘違いに、日本中が振り回された。また自民党と民主党のやり合いも政策で争うものではなく、互いのスキャンダルを追及することに終始しており、これまたいかにも程度が低い。
我々は日々どうでもいいような情報に振り回されている。しばらく日本にいるとそんな事にも気がつかなくなる。無意識の内に毒されているのかもしれないが、ヒマラヤでは余裕がないせいか、無意味な情報なんかに構っていられない。その分だけ精神的に健康になるのかもしれない。
政治家も評論家も、コメンテーターも、キャスターもその多くが言葉の世界。抽象的で幼稚な表現かもしれないが、多くの人はカッコいい言葉を並べるもののけっして命を賭けようとしない。別に命を賭けることだけが尊いとは思わないが、言葉だけの世界はどうも苦手。故にヒマラヤの世界が恋しくなるのだろう。