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世界最大級の氷河湖「ロルパ」へ

  *1月14日(ルクラ村〜ロルパ氷河湖空撮〜ベディン村)

 エベレスト街道のトレッキング、イムジャ氷河湖の視察を終え、次の目的地ロルパ氷河湖へ、チャータヘリで向かった。朝からカトマンズは濃い霧に囲まれヘリがルクラ村にやってきたのは午後12時を過ぎたころ。それからヘリに乗り込みロルパ氷河湖があるロールワリング地方へ。着陸する前にロルパ氷河湖の空撮をしたいので氷河湖上空を何周かしてほしいとパイロットにお願いしたが、ネパールも燃料代が日本並みに高騰(1リッター80ルピー(150〜160円))しているためか、かなりの高額を要求された。一瞬悩みもしたが、ここまできてケチってはいけない。世界中の現場を訪れる為に日々日本で仕事をしているんじゃないかと自身を説得。

空撮の様子

ヘリでツォ・ロルパ氷河へ

  13時、ルクラ村を離陸。途中、シミガオン村で帰りの燃料タンクを下ろし(重量が重いと5000Mを超える高所までヘリが上がれないため)たが、突然のヘリ到着に村人が驚き集まってきた。エベレスト街道と違って外国人慣れしていない村人の様子が新鮮でもあった。シミガオン村を飛び立ち、約15分でロルパ氷河湖が姿を現した。12年前の夏に一度訪れた事があるロルパ氷河湖。夏は氷河が溶けだし水位が溢れんばかりに一杯一杯であったが、今回は冬とあって湖面の大半が凍りついていた。しかし、それでも世界最大級とあってその巨大さにしばし呆然と眺めてしまった。そして慌ててカメラ撮影を始めた。なにしろパイロットが、風が強いからすぐに戻りたいと言い出し、5周ほど飛んでもらえるのかと思いきや2周まで。安全第一、仕方あるまい。

ロルパ氷河湖上空からの撮影

ロルパ氷河湖上空2

  ロルパ氷河湖は標高4580b。長さ3・5キロ、幅0・5キロ、水深132b(朝日新聞報道によると)。約50年前に氷河湖として誕生したとのこと。長年にわたって私のヒマラヤ登山をサポートしてくれたダワ・タシ・シェルパ(42才)はロルパ氷河湖の下流約10キロにあるベディン村の出身。ダワ・タシがしきりに「イムジャ氷河湖も危ないかもしれないが、私の地元のロルパ氷河湖のほうがもっと危ないよ」と私に訴えていた。氷河湖の空撮を終えベディン村に着陸。今日はベディン村に宿泊し、ここからは徒歩でロルパ氷河湖を目指す。

久々に地元に戻ってきて喜ぶダワタシ・シェルパ

  ベディン村ではダワ・タシ・シェルパの従兄にあたるナワン・チクリン・シェルパさん(52才)と合流。ナワンさんはネパール科学技術省からロルパ湖水を中心にした氷河湖の水位や周辺の氷河の融解の状況、また雨量などの調査を依託され、また、名古屋大学や慶応大学の調査隊にも加わったことがある日本語が達者なシェルパ族だ。昨年の朝日新聞の「地球異変」特集にも通訳兼ガイドとして取材に参加しているロルパ氷河湖のスペシャリストであると同時にベディン村のお寺のお坊さんでもある方だ。

ナワン・チクリン・シェルパさん

 そのナワンさんにロルパ氷河湖の拡大について質問してみた。「私が子どもの頃はとても小さな池だった。子どものころはその小さな池の水に写る自分の顔を見て遊んだり、時には泳いだ事もあったなぁ〜。しかし、いつからか急激に大きくなりだし、今では決壊の恐怖に怯えるようになった。氷河湖の決壊が怖くて多くの村人がカトマンズ(ネパールの首都)に移り住んでいる。お金があれば移住もできるが、私たちのような老人はお金がないからここにいるしかない。村には年寄りばかりが取り残されたよ。

ナワンさんら安全祈願

 90年代の半ばにドイツやオランダから援助をしてもらって氷河湖の側面に穴を開けて水を流したがうまくいかなかった。そして2000年には世界銀行の援助で氷河湖に水門をつけ、水位を5メートル下げようとしたが下がったのは3メートルまでです。まだまだ充分ではない。そして氷河が溶け続けている。このままだと水位はまた上がるでしょう。今は1つしかない水門を複数にしないと夏は間に合わなくなる。もし、氷河湖が決壊すれば私の村(ベディン)は15分もかからずに洪水に流されてしまうでしょう」と話してくれた。

  次になぜロルパ氷河湖が拡大しているのか?と質問をしたら「私はお坊さんです。ラマ教の教えでは人が悪いことをしたら神様が怒って自然災害を起こす。悪いことしているからロルパ氷河湖が壊れそうなんだ」と答えたので、すかさず「ロールワリング地方の村人はそんなに悪行を重ねているのですか?」とあえて質問をしてみた。

  それに対して「いや、村人ではない。例えば中国人が近くの山の上にアンテナ(携帯電話などの通信用だと思われる)を建てているがあれが良くない。山の上は神聖な場所だ。1980年には日本人が神様の山であるガウリサンガァール峰(神様の名前)に登った。登頂後、日本隊が帰った後にベディン村の周辺で洪水が起きたんだよ」とお坊さんとしての意見を聞かせて頂いた。

 次にネパール科学技術省にも所属されているナワンさんに「ラマ教の信仰的な意見は伺いましたが、ナワンさんは名古屋大学などの調査隊に加わってみたり、また科学技術省に所属されています。氷河湖の融解について例えばCO2などの温室効果ガスの排出等が温暖化(気候変動)を招いているとの指摘、また科学的な根拠をあげる学者の方が多いが、その科学的な根拠についてどう思いますか」と、宗教家であり、また同時に科学技術省といった名称通りに科学的な根拠に基づく機関に所属する両面を持ち合わせるナワンさんに再度質問を繰り返した。

「う〜ん」と困った顔をしながらも、「宗教も大半は正しいが時に間違える。科学も正しいかもしれないが、間違える時もある。宗教も科学も矛盾があるということさ」と、なるほど、なかなかの説得力でした。

明日はベェデイン村とその上流にあるナァー村で取材。そして16日にロルパ氷河湖にたどり着く予定です。

2008年1月14日 ベディン村で 野口健