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「ディーゼルこそが、地球を救う」(前編)
慶應義塾大学大学院政策メディア研究科の金谷年展教授に聞く

2008年6月18日、札幌市にて「北海道クリーンディーゼル体感フェア」が開催された。日本では一般的に環境に悪いというイメージが強いディーゼル車だが、1997年の革命的なエンジンの技術開発を契機に、ディーゼル車の悪しき象徴でもあった「黒い煤」も今やガソリン車並に低減している。野口はこの日、ゲストとして参加。専門家と意見交換を行った。フェア終了後にはメルセデス・ベンツ日本株式会社のハンス・テンペル代表取締役社長兼最高経営役員が「富士山の清掃など環境保護活動のため全国を飛び回る野口さんに乗っていただきたい」とその場で野口にクリーンディーゼル車『E320 CDI』の提供を約束された。今回はより深くクリーンディーゼルについて勉強するために『ディーゼルこそが、地球を救う』著者である慶應義塾大学大学院政策メディア研究科の金谷年展教授にお話を伺った。

野口「環境問題が叫ばれている中で、レオナルド・ディカプリオがアカデミー賞授賞式にプリウスを自ら運転して登場し話題になったように、最近は『どの車に乗るか』ということ自体が一つのメッセージとなっている。私は環境保護の活動をライフワークとしていますが、このたびメルセデス・ベンツ日本株式会社に提供していただき、クリーンディーゼル車に乗る事になりました。でもたとえば富士山の清掃活動にベンツでいくと、ボランティアで全国から集まってきている参加者の方々がみんな驚くんですね」

金谷「それはそうですよね(笑)。『ベンツ!』というのが今の日本の一般的なイメージでしょうね」

野口「先生の著書にもありましたが、ディーゼル車のイメージとして、『環境(健康)に悪い』『うるさい』『臭い』とマイナスのイメージばかりです。『石原東京都知事』というのも多い(笑)。唯一プラスのイメージとしてあるのは『馬力がある』くらいです。私自身も東京都の自然保護関係の委員を務めていたこともあって、石原知事の『ディーゼル車NO作戦』の影響が強くディーゼル車というと悪いイメージしかなかった。でも環境先進国が数多くある欧州では、ディーゼルの人気は高く、乗用車新車販売台数の50%以上をディーゼル車が占めていると聞きます。逆に日本ではディーゼル乗用車のガソリン乗用車に対する割合は1%にも満たない。何でこんなに違うのかなと不思議に思います」

金谷「多くの要因がありますが、まず一つ目はディーゼル車の悪しき象徴である黒い煤が欧州よりも多く排出されていたという点があげられると思います。その前にまず基本的なおさらいとしてそもそも自動車というのはエンジン形式が主に2つあります。ガソリン車とディーゼル車ですね。ガソリン車はガソリンを燃料として使用しますが、ディーゼル車は軽油を燃料とすると。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより熱効率がよいため燃費が優れている。しかしガソリンエンジンに比べると騒音や振動が大きいという問題がありました。また排気ガスの観点から見ると燃焼方式の違いにより一般的にディーゼルエンジンは、燃費が良いためガソリン車よりもCO2の排出は少ない。でも粒子状物質や窒素酸化物をガソリン車よりも多く大気中にばらまいていたんですね」

野口「粒子状物質や窒素酸化物というのは簡単にいうとどういうものなのでしょうか?」

金谷「簡単に言いますと粒子状物質は煤が主ですね。石原知事が『ディーゼル車NO作戦』の発表の際に黒い煤が入ったペットボトルを一生懸命振っていらしてましたが、あの中身です。厳密に言いますと、粒子状物質は煤を中心としてその周りに、燃え残った燃料や燃料である軽油の硫黄分から生成される硫黄化合物などがくっついているものです。
もう一つの窒素酸化物というのは、今、我々の吸っている空気に含まれている窒素や酸素が化合した物質で、煤のように色がついているものではありません。ですがこの窒素酸化物が光化学スモッグの原因ということで1974年から規制が強くなったんです」

野口「光化学スモッグというと、確か1970年に、環状7号線の付近の学校の生徒が体育の授業か何かの際にグランドで目や喉の痛みを訴えて、東京都の調査で光化学スモッグの影響ということが判明してから注目されたという記憶があります」

金谷「そうです。窒素酸化物自体はほとんど無害なのですが紫外線と光化学反応を起こすと有害なものになるんですね。それでここがポイントなのですが1974年の窒素酸化物の規制の当時のディーゼルエンジンの技術では、窒素酸化物の排出量を減らすと逆に煤が増えてしまうというトレードオフの関係にあったんです」

野口「それは何故でしょうか?」

金谷「これは当時の技術の問題に尽きるのですが、以前のディーゼルエンジンは完全燃焼させると煤は減るが窒素酸化物が増えると。何故かというと窒素と酸素の反応が高温だと進んでしまうんですね。当時は光化学スモッグが大きな社会問題でしてその影響でこの時に窒素酸化物の規制が世界でもトップレベルにまで強められたんです。故にエンジンは窒素酸化物を減らすためには完全燃焼ではなく不完全燃焼の方に傾くわけですから、燃焼時の酸素不足や低い燃焼温度の影響で煤の排出量が増えたわけです」
野口「なるほど。どちらかを選ぶということしか出来なかったんですね」

金谷「バランスよく煤も減らし窒素酸化物も減らすということであれば良かったのですが、それほど当時、光化学スモッグの公害の影響が大きかったといえるかも知れません。ただ実は煤はそんなに遠くに飛んでいくものではく、せいぜい数百メートルくらいしか飛ばないんですね。自然には良くないですが、住宅街を走らなければ、健康問題はないんですね。だけど日本の場合は高速道路や環状7号線や8号線といった幹線道路沿いにも住宅が隣接している。また抜け道利用のためトラックが住宅地を通るということも多いです。欧州はそもそもすみわけがしっかりしていて、トラックなどの商業車が住宅地を走るという事もなく、高速道路や幹線道路沿いに住宅がないんです。ですので1970年代に光化学スモッグによる窒素酸化物の規制のため煤が増え、日本の特有な道路事情や産業構造、住宅事情などが複合的に密接に絡まりあい、なるべくしてディーゼル車の黒い煤による大気汚染や健康被害が起きてしまったと」

野口「なるほど。あとは丈夫ということもあってトラックがメンテナンスをあまりしないといった点もありますかね?」

金谷「そうですね。他にもトラックが無理して過積載により多くの煤が出たという点もあります。いずれにせよ様々な要因が絡んでいるんですね」