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「ディーゼルこそが、地球を救う」(後編)
慶應義塾大学大学院政策メディア研究科の金谷年展教授に聞く

野口「いわゆるクリーンディーゼルというものはいつ頃から始まったのでしょうか?」

金谷「1997年に開発されたコモンレールという技術がディーゼルを大きく変えました。これ以降をクリーンディーゼルと呼ぶことが多くなっています。コモンレール式ディーゼルというのは、高圧燃料をコモンレール(畜圧室)に蓄えた上で、エンジンの運転状況に応じ最適な噴射量と噴射のタイミングをコンピューターで制御するという画期的なものです。これによりパイロット噴射、プレ噴射、主噴射、アフター噴射、ポスト噴射といった多段階噴射制御が可能になりました。また超高圧の噴射が可能になりました。ディーゼルエンジンは燃料を噴射してから自然発火するまでにわずかな時間ですが『着火遅れ期間』が発生します。この際に蓄積された燃料が一気に燃焼すると、圧力の急激な上昇でディーゼル特有の騒音が生じるという問題がありました。でもパイロット噴射とプレ噴射を行う事で圧力の急激な上昇を防ぎ騒音の低減に成功した。また以前のディーゼルエンジンは急激に温度上昇したときに、窒素酸化物が増えたんですね。だけどコモンレール式だと主噴射の段階で控えめな噴射率で急激な温度上昇をなくすことができる。そうすると窒素酸化物の排出が抑えられる。次の段階で本格的な燃焼が始まると今度は高圧噴射で出来る限り急速に燃焼を起こす。すると煤の発生を抑える事ができる。それでも発生した煤はアフター噴射で燃やしきってしまう。以前のディーゼルエンジンだと一定量を噴射し続けなければならないため温度をあげれば窒素酸化物が増え、下げると煤がでる、という呪縛があった。しかしこの技術により状況に応じて自由自在に燃料噴射をコントロールすることができるようになった。長年の課題であった窒素酸化物と煤のトレードオフの関係を解決したんです。これがクリーンディーゼルと呼ばれるものの心臓部分です」

野口「なるほど。それで現在は窒素酸化物や煤はどの程度まで減ったのでしょうか?」

金谷「2009年に施行される『ポスト新長期規制』ではガソリン車とあまり遜色ない水準になります。今、現在では、ガソリン車の方が窒素酸化物や煤の排出は少ないですが、既に健康や環境への影響といった意味ではほとんど差はないといってもいいレベルにまで来ています。ディーゼル車の最大の欠点である窒素酸化物と煤の排出量が、ガソリン車の長所である窒素酸化物と煤の排出量の少なさに並んでくるわけです。さらにディーゼルはそもそもガソリン車よりも燃費が圧倒的によく、加速性能、ドライバビリティ、耐久性といった点で優れています。また何といってもCO2の排出量は同一トルクで約35%も少ないわけです。またよくディーゼルは渋滞だと弱いとか言われますがそんなことは全然なくて渋滞でもCO2排出量と燃費はガソリン車よりも良いんですね」

野口「では何故、日本ではガソリン車ばかりでディーゼル車がこれほどまでに少ないのでしょうか?」

金谷「まず日本で商品が出ていないというのが一番の要因ですね。では何故、日本のメーカーがディーゼルの乗用車を作らないかというとやはりイメージの悪さが大きいと思います」

野口「日本ではハイブリッドが環境にやさしいということで定着した感がありますからね。逆にディーゼルは石原知事の影響もあってイメージが悪いままですね(笑)」

金谷「欧州ではディーゼルのイメージが悪かった頃でさえ、2割くらいはディーゼル車だった。それから3割、4割と市場占有率があがっていき、今では7割をこえている。2割でもガソリン車かディーゼル車かという選択肢があれば選びようがあって、良いものであれば自然と口コミや実際に運転した際の感覚でどんどんと利用者が増えていきますが、日本のようにそもそもディーゼルという選択肢がない状況では選びようがなかったんですね」

野口「他にも要因があるのでしょうか?」

金谷「日本の乗用車はほとんどオートマ車ですが、ディーゼルのオートマ車をつくるのにはものすごくコストがかかるんです。マニュアルでディーゼルをつくるのはノウハウがあるのでコストがかからないのだけど、ディーゼルのオートマは新たに生産ラインをつくる必要があり、また技術的にも難しく、大規模な投資が必要なのでこれまで敬遠されてきたのだと思います。故に最近発売された日産のエクストレイルのディーゼル車もマニュアルなんですよ。」

野口「なるほど。私が提供いただいたメルセデスのE320CDIはオートマですが」

金谷「欧州では、特に4気筒以下の小型車ではマニュアル比率は確かに高いのですが、
メルセデスではどのクラスのディーゼルでもATの設定はありますし、6気筒以上の
モデルはディーゼルでもほぼ全部オートマなんですね」

野口「ところで先生の著書のタイトルでもある『ディーゼルこそが、地球を救う』ということについてお伺いしたいのですが」

金谷「昨今、CO2の削減についての議論が喧しいですが、たとえばディーゼル乗用車の普及率は現在、日本ではガソリン車に対してわずか4%ですが、これを30%にまで普及させるだけでCO2が635万トンも削減できます。これは京都議定書の運輸部門のCO2削減計画の30%に相当します。さらにそれに加えて、燃料製造時に軽油生産量を増やすことによりCO2の削減が可能です。これは原油から軽油を製造するには、1:常圧蒸留装置→2:脱硫装置→3:軽油という3段階で済みますが、ガソリンの場合は多くのパターンがあるのですが、たとえば一つ例をあげると、1:常圧蒸留装置→2:減圧蒸留装置→3:直接脱硫装置→4:流動接触分解装置→5:脱硫装置→6:ALK装置→7:アルキレート→8:ガソリン、といったように非常に複雑で長い工程が必要とされます。故にガソリンの製造には多大なエネルギーが必要となり、CO2が多く排出されるんです」

野口「なるほど。たとえばどのような割合でどの程度削減できるのでしょうか?」

金谷「現在はおおよそ軽油を3700万klにガソリンを6000万klといった割合ですが、これを軽油を4400万klにガソリンを5700万klといった割合にするだけで約170万トンものCO2の削減が可能です(一部ガソリンと軽油の需給バランスを埋めるために重油や軽油などからガソリンに精製している際に発生しているエネルギーを含む)」

野口「まさに『ディーゼルこそが、地球を救う』なんですね」

金谷「既に成熟している技術では、ディーゼルがCO2削減には最も即効性があると思うんです」

野口「この前、ハイブリッド車を作っている関係者から『実はハイブリッドよりもクリーンディーゼルの方が燃費が良い』と聞きました。メルセデス・ベンツの『E320 CD1』はなんとリッター18キロを記録したとも聞きます。ちなみにディーゼルとハイブリッドが一緒になれるものでしょうか?」

金谷「もちろんなれます。ライフサイクルのCO2排出量をガソリンを100とした時に、ディーゼルは70でハイブリッドは50くらいなんですね。ところがディーゼルハイブリッドは7割減の30なんです。実はここまでいくと化石燃料から作った水素で走る燃料電池車よりもCO2排出量は少ないんです。何故なら燃料電池自動車は運転中は一切CO2を排出しませんが、燃料電池をつくる際にCO2を排出するんです。つまり化石燃料で走る車で最もCO2を出さないトップランナーはディーゼルハイブリッドということです。またディーゼルはバイオマス燃料との相性も良いんです」

野口「国が定めたバイオマス・ニッポン総合戦略ではバイオマスは『再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されていたと思います。これはたとえばトウモロコシでつくるエタノールとかそういうことでしょうか?』

金谷「いや実はですね、トウモロコシ100%のエタノールはガソリンや軽油よりもCO2を排出するんですね。結局、エタノールを作る際に多くの石油エネルギーを使うんです。最もディーゼルと相性の良いバイオマス燃料は軽油代替燃料であるFT軽油なんです。これは廃木材や稲藁、麦藁、草、間伐材、またはごみや下水汚泥からつくることが可能です。このFT軽油はガソリンを100とするとなんと10程度のCO2しか排出しない。この燃料とディーゼルを組み合わせたものが既にドイツでは実用化されています」

野口「産油国でない日本にとってはとても良いことですね。日本のエネルギー自給率の向上にもつながりますし、私の富士山の清掃活動でのごみや森林再生のための間伐材も使えるわけですから。今日は貴重なお話をありがとうございました」