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「私のエコカー」

  エベレストや富士山の清掃活動など、環境問題に携わる活動を始めて早9年目。最近では私を登山家であると知らない人が増えた。先日、食堂に入ったら店長さんが「アルピニストの野口さんですよね!」と尋ねてくるので「いかにも、私が野口健です」と答えたら色紙を渡され、サインをくださいと。「エベレスト登頂・野口健」とシンプルに書いたらキョトーンと不思議そうな表情をされ、「えっ! 野口さん、エベレストに登ったことがあるんですか?」と。彼のその一言にこっちが「えっ!」と驚いてしまった。「だって私は登山家ですよ。エベレストぐらい登っていますよ」とムキになったら、「えっ、アルピニストって登山家のことだったんですか。ごみを拾う専門家かと思っていた」と言って、真っ赤な顔で「アッハハハ」と笑い転げていた。



  どうやら最近の私のイメージは「登山家」ではなく「環境屋」らしい。いわゆる「煙草は吸わない」「車はハイブリッド、または、移動は自転車」など、そしてこれは環境問題には関係ないのだが、「野口さんは環境問題の方ですから夜遊びなんかしませんよね」と聞かれることがよくある。そんな時はついつい「夜遊びぐらいしますよ! 冒険家なんですから!」と反論してしまう。そもそも『ソトコト』をつくった御大も夜遊びの常習犯である。しまいには『エロコト』から『ラブコト』まで出版してしまうのだから。しかし、一般的な「エコ」のイメージは「優等生」なのだ。出来の悪い私は疲れて仕方がない。

  そしてよく、「野口さんは環境の人だから、車には乗らないでしょ」と聞かれるが、私は大の車好きである。仕事で移動する時も、スタッフよりも主に私が運転する。子どもの頃に英国で育っていた影響か? ジャガーに憧れ、初めて購入したのは20年落ちの古いジャガーだった。一発でエンジンが掛かるとハンドルをなでなでしながら「今日はいい子だ」と褒めてあげた。なにしろ、なかなかエンジンがかからない代物であった。しかし、なんともいえない気品と色気があり、また美しかった。

現在の私の相棒がこのメルセデス・ベンツ製クリーンディーゼル・カー。日本ではどうしてもディーゼルがネガティブ・イメージだが、環境にうるさい欧州では好んで受け入れられている。

  しかし、その後に清掃活動や環境学校などの取り組みを始めると「えっ! 野口さんがジャガー」と冷ややかな視線を感じることが多くなった。確かに燃費は恐ろしく悪かった。しかし私からすれば「20年以上も古いものを大切に使い続けるのも一つの環境問題じゃないか」と突っ張り続けていた。しかしついに動かなくなり、手放すことに。そして次の相棒はボルボの四駆となった。北欧生まれのボルボは寒さや雪道に強く、私のようなアルピニストには最適であった。また飽きのこないシンプルなコックピットに愛用者も多い。そしてイメージ的にもアウトドアと一致する。しかし、ジャガーの時同様に冷たい視線を感じることが度々あった。

  それはハイブリッドカーが代表的なエコカーとされ、最近ではアカデミー賞授賞式でもレオナルド・ディカプリオといった世界的映画スターらが環境問題に関心のあることをアピールするためにハイブリッド車に乗って登場するのを象徴するかのように、「エコカー」イコール「ハイブリッド」、いやもっとダイレクトに表現すれば「ハイブリッド以外はエコではない」とイメージ化されたからだろう。

  ちょうどその頃、千葉の田舎に家を構え、私はいわゆる東京に単身赴任の身となり家族との別居生活がスタート。車が2台必要となり、ついにハイブリッド車を購入。しかし、これは個人的な趣味の問題だが、私的には運転していてワクワクするような躍動感、パワー、安定感を楽しめなかった。ある時に「運転していても面白くないなぁ〜」とスタッフにぼやいたら、「野口さん、環境問題は我慢することでしょう」とピシャリと言われてしまった。その正論に反論もできず、黙って頷くしかなかったが、「我慢するだけでは……」と決して表には出せない心の声が聞こえていた。

  しかし最近、雑誌(『WEDGE』8月号)で中村繁夫さん(レアメタル専門商社・AMJ社長)が「ハイブリッドをつくるための資源開発の現場で環境破壊が進んでいる現実は意外に知られていない」と指摘されているのに驚いた。中国の鉱山からハイブリッド車に必要なディスプロシウムやテルビウムなどの元素を100パーセント輸入しているが、そのおかげで中国の鉱山現場では急速な環境汚染が進んでいるとのこと。コスト削減のために直接採掘現場に硫酸をかけて、希土類を浸出採取する生産方式がとられている。1000トンあたり2トンしか希土類元素が採取されず、つまりは998トンもの汚染された土砂は、再処理されないまま川に廃棄されている、と中村さんは訴えている。また、「環境保護団体が、汚染物質を撒き散らして走るエコカーの写真を日本の『環境技術』の象徴として表現することのないようにしなければならない」とも警告されている。

  もちろんハイブリッド車にも優れた面は多々あるのだろう。しかし、ハイブリッド車は究極のエコカーであると、一方的に疑問を抱くことなく信じ込んでいただけに、もう片一方でこのような問題が生じていることに、環境問題は一筋縄にはいかないと、その難しさを改めて痛感していた。

  そんな私にメルセデス・ベンツのディーゼル車とのタイアップの話がきた。メルセデスは1934年に世界で初めて乗用車にディーゼルエンジンを搭載させたが、一般的なディーゼルエンジンのイメージは「汚い」「うるさい」「臭い」だろう。特に、石原慎太郎東京都知事が目をパチクリさせながら、煤で真っ黒になったペットボトルを振り回し、「ディーゼル車NO作戦」を発表した。私を含め多くの方々がディーゼル車は環境破壊(大気汚染)の象徴と映ったのではないだろうか。しかし、環境先進国の多い欧州では国によってはすでに6割以上、欧州全体でも5割以上がディーゼル車とのこと。なぜ、環境先進国はディーゼルを選択するのか? この夏から私の相棒となったメルセデス車の横っ腹には大きく「New Clean Diesel」と表記されたシールが貼ってある。次回はクリーンディーゼル・エンジンについて探ってみたい。

すっきりとしたインパネの中央に注目。燃費はリッターあたり17.6キロを計測中。