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キリマンジャロ
 モンブランに登頂できれば、落ちこぼれの私も多少は学校から自分の存在を認めてもらえると思っていた。しかし、現実はそれほど甘くはなかった。私は相変わらず仮進級の野口、停学処分明けの野口、そしてとどめは、お姫様を愛してしまった兵隊の野口、であった。

 高枝2年生の2学期といえばそろそろ大学受験を意識する頃だが、そんなある日、担任に呼ばれた。「なあ野口、お前の彼女の成績だけどな、お前と一緒になってからどうも芳しくない。このままだと、大学受験ダメだな。これもお前の影響だよ。それでいいのか」これには参った。後になって本当は彼女の成績が落ちていなかった事を知るが、後の祭りであった。

 確かにこの頃から、彼女が私から遠ざかり始めた。口もなかなか開いてくれなくなった。いつも深刻な顔をするようになった。前みたいに笑わなくなった。相変わらず私には弱音など吐かない。ジッと、なにかを我慢しているかのようだった。彼女からいつかふられるんじゃないかと、私も落ち着かなくなった。イライラもした。一時期落ち着いていた私の精神状態も、またまた不安定になった。



アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ。赤道に近いが、頂上付近は氷河と氷雪を頂いている
毎日新聞社提供

 先生とけんかもするようになった。先輩や後輩をなにかにつけて殴ってしまう。悪い癖がでてしまった。自分の弱さをさらけ出しているようで自己嫌悪に陥ってしまった。自分を責めた。

 そんなある日、体育の授業で走っていたら胃が猛烈に痛くなった。一週間程前からどうも胃の調子がよくなかったのだ。走り終わってから、すぐトイレに駆け込み、吐血してしまった。便器が血だらけになるのを見て、もう人生は終わりかなとさえ思った。胃かいようであった。

 医務室のベッドで横になりながら、兵隊がお姫様を好きになることの限界を感じた。このままでは私も彼女もダメになる。もう別れようと地獄の決断をした。断腸の思いであったが、学校の責任ではない。弱い自分には他に方法がなかったのだ。モンブランに登ってもしょせん、兵隊は兵隊であった。ダメな男であった。

 彼女と別れてから、私の頭はキリマンジャロに絞られた。キリマンジャロを思うことで彼女との別れを少しでも忘れたかったし、キリマンジャロに登頂すれば「士官」とはいわないもののせめて「兵隊」から「下士官」になれると思った。

 無名山塾の岩崎さんに連絡し、キリマンジャロに行きたいけれどどうすれば登れますかと相談した。岩崎さんはモンブランの後に私がキリマンジャロに行くのではないかと予想していたらしく、笑っていたが、頑張れとある日本隊を紹介してくれた。