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前三重県知事・北川正恭氏と対談
−環境マニュフェストを−



 「北川氏に惹かれたわけ」


 2003年10月19日と同年11月19日、富士山の環境改善に取り組む野口をサポートするキャンペーン「Mt・FUJI ACTIONS 3776」(主催:産経新聞社)の一貫として「富士山が変われば日本が変わる」と題したシンポジウムが東京と大阪にて開催された。野口の基調講演の後、前三重県知事・北川正恭氏との対談というプログラムであった。以前から野口は北川氏に強い興味を示しており、野口の熱烈なラブコールに北川氏が応えてくれた形でこの企画は実現した。
 紹介するまでもないが、北川氏は三重県議を経て、1983年から衆院議員を4期務め、1995年に三重県知事選に当選(2期連続)。その後は、早稲田大学大学院公共経営研究科教授と「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表を務め、環境政策に造詣が深い。昨今話題になっている「マニフェスト選挙」の火付け役としても有名だ。

 野口は何故、北川氏に惹かれたのか。それは2002年に熊野古道を世界遺産にするためのシンポジウムが行われた時まで遡る。シンポジウムでは野口が基調講演を行い、富士山へ向かう道路の脇の至るところにラブホテルの看板が立ち並んでいる話を取り上げ、景観の重要性を取り上げた。野口曰く「いくら富士山を綺麗にしても、麓がそんな状態では、世界遺産なんて到底無理な話であり、富士山を取り巻く一帯を文化圏として作り上げなければならない」ということであった。
 その後に、北川氏が県民に対してスピーチを行った。その時のスピーチに野口は強烈に魅了されたのである。北川氏は「私も腹を括りましたから、みなさんも腹を括って下さい。世界遺産になると世界中からお客が来る。ならば熊野古道だけを綺麗にするということではすまない。そこまでのアプローチを含めて文化圏にしなければならない」と熊野古道の世界遺産登録へ向けて、看板の撤去を始めとする景観の統一を会場にいる県民に訴えたのである。

 「いやー、あれはびっくりしたね。僕みたいなフリーの立場の人は何でも言えるけど、知事という立場でああいう風に言ってしまうのは驚いたし、発言の意味が全然違ってくる。世界遺産にするためのシンポジウムといっても、随分と反対派の人も来ていた。そもそも世界遺産に向けて動くとそれによってこれまでの既得権益を脅かされる人もいるわけだから。更に、知事という立場では、選挙もあるわけだし、『環境は票にならない』というのは通説なのに、それらにひるむことなく、一生懸命に説明していた。その時の印象が鮮烈というか新鮮で、この方とは是非とも一度、ゆっくり話したいと思っていた」

 その後、野口が各メディアに「対談するなら北川さん」とリクエストをあげていた。そして産経新聞社がその実現に動いてくれたのである。

「環境マニュフェストを」

 今回の対談では、野口からは、エベレスト清掃登山、国立公園の管理の不備、環境教育の必要性など様々な問題が語られた。北川氏からは県庁からゴミ箱をなくすことによりゴミの量を8割も激減させた「ゼロエミッション」運動を始めとする三重県政の様々な環境改革や、これからは環境に優しいことをした方が儲かり、そうしなければ会社や団体はつぶれてしまうという「環境経営」の重要性などが語られた。
 対談の内容は多岐に渡ったが、中でも大きな盛り上がりを見せたのが「環境マニュフェスト」について双方が合意した点だ。


 北川氏は「選挙の公約なんてだれも本気にしていない。マニフェストをつくろうよ、と四月の統一地方選挙前に候補者の知事に呼びかけたら、ワーッと入れてくれた。ふたを開けたら「苦い薬」=マニフェストが入った候補者の方が強かった」と日本の選挙の変化を指摘し、「今度の参議院選挙では、僕たち民衆側から『環境マニュフェスト』を作って各政党に提示しよう。そしてそれを採用してくれた環境に熱心な政党を応援すればいい」と野口に呼びかけた。
 更に『of the people, by the people, for the people(人民の、人民による、人民のための政治)』というリンカーンの言葉をあげ、日本で一番遅れているのは「by the people」であると政治への国民の関心のなさを説いた。

 野口は北川氏の提案に強い興味を示したようだ。「やりましょう」と握手を交わした姿が非常に印象的だった。

「昨年の衆議院選挙は『マニュフェスト選挙』と位置づけられたけど、実際にマニュフェストを手にとって見て愕然としたよ。自民党はまだわかる。これまで土建屋体質でやってきたわけだし、公共事業のバラマキで地方の議員が当選してきたという歴史がある。ただそういった自民党の体質を散々批判してきた民主党が今回、明確な環境政策について打ち出せなかったのは、非常に残念な暗気持ちになったよ。
ただ北川さんの話を聞いて『なるほど』と思った。僕はこれまで、マニュフェストというか政策というものは、政党が作るものとばかり思っていた。誰もやらないなら、民間人である自分たちが環境マニュフェストを作って、それで政治が動けばいい。それこそがby the peopleだし、民間から政治を動かせる可能性は十分にある」

 野口は、常々、環境問題は最も優先されなければならない政治課題であると考えている。今夏の参議院選挙について野口は不出馬を表明したが、今後どのような形で環境行政へと働きかけを行うのか。北川氏とのマニュフェストがその引き金になるのかも知れない。
 
追記

 対談は事前の打ち合わせもなく、司会者もいない一対一の真剣勝負だった。北川氏は百戦錬磨の論客で、野口の発言に対して、様々な異論をぶつけてきた。野口は久しぶりの真剣勝負に「これこそが対談だよ」と興奮気味に話していた。野口は様々な対談を経験しているが、所謂「用意された」対談も多い。北川氏も野口との駆け引きを、ゆったりとワインでも嗜むように楽しんでいたように見えた。


2004年2月24日
文責:小林元喜