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屋久島を歩き終えて

 宮之浦登山を終え、島の方々とのお食事会が開いていただいた。昨年12月に屋久島で知り合った方々や新たな出会いもあった。飛び魚の刺身から始まったこの席上で、屋久島の自然をどう守っていくべきなのか、意見が交わされた。酒が入れば勢いもつく。実際に現地で生活されている方々の意見は重要だ。よそ者が好き勝手言っても始まらない。地元の方々との交流が活動の基本になる。だから、色々な土地に出かけるさいには、できる限り地元の方々の声を実際に聞きたいと常々思っている。

 昨年12月に屋久島に来た際も島のガイドの方々と酒を酌み交わした。その時に
「屋久島を世界遺産にされて迷惑だ!」
「突然、有名になって人が押寄せてくるが、国はなにもしてくれない。ゴミがわんさかでる。そのゴミの始末まで我々に押し付ける。ボランティアには限界があるんだ!」
「環境省のレインジャーはこの島に一人しかいないんですよ!」
「レインジャーはデスクワークしかしていない。実際に屋久島の山を歩いていない。それでも、やっと何度か山に来てくれたかな〜と思ったら人事の異動だ。2年足らずで相手がコロコロ変わるんだから、もう相手にしても意味が無いよ!」
と厳しい意見が僕に寄せられた。今回の飲み会でもやはり同じだった。

「世界遺産にされて迷惑だ!」

 昨年、白神山地で地元の方々から聞かされた言葉だ。白神山地も屋久島も抱えている問題は同じ。行政の対応に怒っているのだ。僕自身、同じ疑問を行政や政治家の方々にもっている。先日出版した「100万回のコンチキショウ」の中にも書いたが、国立公園や世界遺産を守っていく制度があまりにも貧弱だ。アメリカの国立公園と比較すれば明らかだ。そもそも日本にはその国立公園を知り尽くしたレインジャーが実に少ない。人数そのものが1000人足らず。そしてレインジャーの多くが事務手続きに追われ、実際の問題点を把握しないまま、数年間の勤務を終え、他の場所へ移動してゆく。

 白神山地でマタギをしている工藤さんもレインジャーのありかたを嘆いていた。そしてガイドの質にも問題がある。屋久島の大田さんのようにその土地を知り尽くしているガイドは少ない。ツアーを組んで、30人〜40人ものお客さんをつれてきて、ただ歩くだけ。その自然の生態系の説明や性格などほとんど説明もない。ガイド自身が素人だったりする。あくまでも営業目的と割り切ったガイドと旅をしてなにが楽しいのか?時間とお金の無駄。ガイドは選ばなきゃいけない。しかし、選択の余地がなかったりもする。つまり、本物のガイドを養成しなければならない。その点、ガラパゴスのガイドは特定の資格がなければガイドできないシステム。ガイド養成学校もあるという。観光客も入島料を支払い、その中から自然保護やガイド養成にあてられる。自然を守るルールがしっかりあるアメリカやガラパゴスやニュージランド、他のヨーロッパ諸国と比較すれば日本はまだまだ行政や政治家の環境保護に対する姿勢が未熟だ。これだけ「環境」という言葉が日ごろ耳にする機会が多い日本でありながらも、政治家は選挙で明確な環境政策を訴えようとしない。ようは環境! では票にならないと考えている。環境問題は経済を圧迫すると、その抵抗を恐れてか口に出そうとしない。出したとしてあくまでも表面的なきれいごとでしかなく、具体的な案までは及ばない。川口環境省大臣(当時)が苦労されていたのを思い出す。

 白神山地や屋久島の地元の方々がこんな僕相手に必死に現状を訴えてくる。
「野口さんの口から伝えてください」
「環境省のお役人や政治家達にもっと真剣になるよう意見してください」
「このままでは世界遺産になったが為にここの自然は滅びてしまう!危機感を広めてください」と・・・。

 やはり、現場にこなければ分からないことが沢山ある。僕は日本全国歩き回って多くの方々の意見に耳を傾けてきた。スケジュール的にはきつかったが、でも大きな大きな財産になった。現場の声を聞いているうちに、屋久島も白神山地も富士山も、どこも共通の問題点があることを知った。以前は激しく抵抗され挫折した入山料制度もいまや地元からもその必要性を訴えてきている。当然反対意見もあるけれど、ただじっくりお話ししているうちに、理解される方が多くなってきた。時代が環境に対する人々の意識を着実に変え始めている。

 僕の役目はなんだろうか。僕には何が出来るのか。今、必死に考えている。ただ1つ分かっている事は、もっともっと現地の意見を聞きたい。なにが問題でなにが足りないのか知りたい。見たい。感じたい。その中から何を訴え発信していくのか。今年も歩き回るぞ!

2002年3月27日
野口健