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現地隊員レポート
・・・待つ

愛する野口さんを待つ、ニマ・オンチュウ
帰りを待つ、シェルパ達
焼きそばを作って待つペンバ
野口さんに焼きそばを運ぶ
遥かなるギーアを想うズ〜ラ

 今、昨日5月16日に、サウスコル(8000m)から、野口さんらが無事帰ってきました!

  日本にも、このホームページで無事ベースキャンプに降りてくる報告をいまか、いまかと心配されていた方がたくさんいらっしゃると思いますが、実はベースキャンプでも、インターネットと無線という違いこそあれ、ほとんど同じ状況、心境かもしれません。

 ベースキャンプと野口さんとは、基本的に朝、昼、夕の一日三回に定時に無線連絡をすることにしていましたが、行動日程や天候などの影響で、必ずしも定時に交信できるとは限りません。また、ベースキャンプとキャンプ2は無線機用のアンテナを立てているので交信不能なことは稀ですが、行動中に野口さんが使うハンディータイプの無線機では、標高が高かったり、降雪があったりするとベースキャンプからは交信ができなくなります。そんな時は、キャンプ2にいるスタッフを中継したり、少しでも電波状況がよいところへ野口さんがわざわざ移動してベースキャンプと交信します。こちらから野口さんの声が聞き取りづらい時には
「すいません。聞こえません。どうぞ」
と、言うのですが、寒い中、空気の薄いところで野口さんが電波状況のよいところを探しているところを想像すると心が痛みます。

 また、キャンプについた時は別ですが、行動中は集中力の妨げになると危険なので(車の運転中に携帯電話の使用が法律で禁止されてるのと同じ理由ですね)、よほどのことがないかぎり、こちらからは交信できません。

唯一できることは「・・・待つ」こと。

 幸い野口さんは、まめに連絡を入れてくれる性格のようで、長い時間、音信不通にならなかったので助かりました。といっても、3〜4時間おきの連絡がですが・・・。

  いつ無線が入るか分からないので、通信スタッフらと共に機材テントに詰めていたのですが、待機中に読みかえそうと思っていた「百万回のコンチクショー」は5日間で10ページしか読み進められませんでした(笑)。

 ベースキャンプで野口さんらの帰りを待っているのは、私たちだけではありません。

 ベースキャンプにいるシェルパらは、アイスフォールを降りてくる隊員やシェルパを望遠鏡で見つけると、安全なところへ降りてくるまで数時間もの間、交代でずっと見ています。

 その報告を受けて、キッチンスタッフは、到着時間に合わせて飲み物や食事を用意します。野口さんはベースキャンプに戻ると「焼きそば」のほかに「つるっとしたもの」をいつも所望するので、キッチンスタッフは「焼きそば」のほかに日本から持ってきた「うどん」や「ゼリー」を作ってくれます。コック長のテンバは、ベースキャンプの気温や天候を考慮して
「今日の天候だと、ケンは冷たいうどん、温かいうどん、どっちがいいかな?」
と。そんなキッチンスタッフは、ベースキャンプについて久方ぶりにキッチンテントに来た野口さんが料理に口をつけるのを離れたところから厳しい表情でじっと見ていて
「あーうまい。ベースキャンプは天国だー」
と言う野口さんを見て、にっこりと笑います。

 グルジア隊員のドクター・ズ〜ラの待ち方は、尋常じゃありません(笑)。彼は、具合の悪くなった隊員やシェルパを診るために、私と同じくいつもベースキャンプに待機しています。隊員やシェルパが上部キャンプにあがっている時も、心配そうに山を眺めていますが、同じグルジア隊員のギーアがいったん上部キャンプにあがると大変です!!

  彼のテントは、無線機のある機材テントとすこし離れた所にあるのですが、10分、いいえ5分おきぐらいに機材テントに来ては
「いま、ギーアはどこにいるのか?」
と、聞いてきます。さすがに5分では状況はあまり変わりません。しかもギーアは、頻繁に連絡を入れる性格ではないようです。しかたないので、ズ〜ラがテントに来るたびに私は、たいてい前回と同じく
「○時○分にキャンプ○についたと連絡がありましたよ」
と、答えます。すると、
「May be(たぶん)いまごろ、○○○についたかな〜」
「May be 疲れてるんだろ〜な〜」
そして、
「・・・Life is always may be・・・」
と、つぶやき、泣きそうな顔をしながらテントを出て行きます。

 ある時、通信スタッフの
「国の奥さんと、ギーアとどっちが大事なんですか?」
という質問に
「今は ギーアだ!!」
と、間髪いれず答えていたのが印象的でした。

 そんな彼ですから、ギーアが無事帰ってきたときは、本当に嬉しそうです。けれども、ギーアはそんなズ〜ラに構うことなく、隊員やシェルパに上部キャンプでの出来事のマシンガントークです。そんなギーアをやはり嬉しそうに黙って眺めているズ〜ラ、男同士ですけど、素敵なカップルだなーと誰もが感じるはずです。

野口さんの清掃登山活動の目指す頂上は、非常に高いものですが、ホームページで応援してくださるみなさんも含めて、少しでも彼の荷を軽くできたのならば、幸いです。

帰国したら、「・・・待つ」だけではなく、自分でも頂上を目指してみたいと思いました。

2002年5月17日
ベースキャンプより 谷口けい