富士山から日本を変える
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大坪千夏アナと登る富士山


ここ(1合目?)から富士山に登る
新緑の木々におおわれた登山道
登山道に落ちていた便器。これはトイレではありません!!
独立峰 富士山の夕日。きれいだな〜
頂上で記念撮影
下山中に集められたゴミ
今回の撮影スタッフと集合写真。お疲れさまでした

 エベレストから帰国したものの、連日休む暇もなく、目まぐるしい日々が続いた。わずかにあった休みには九十九里浜の白子にある「太陽の里」という温泉で、ボケーと過ごした。寒さに震えながら過ごしたエベレストが夢のように感じられた。そして洗い場の鏡に映った自分の体に驚いた。全身の筋肉が落ちまくっている。特に腰や背筋、モモの当たりがなんとも貧弱で頼りなさげであった。サクラの散歩で家の周りを歩いていても息切れし、ばててしまう。相変わらずお腹の調子は良くなく下し気味・・・。そんな僕には不安があった。

 それは6月にフジテレビの「晴れたらいいね」の取材でふたたび大坪千夏さんと富士山に登ることになっていたからだ。昨年の秋には彼女と雪が積もる八ヶ岳に登り、春には再び彼女と屋久島の山々を縦走した。毎日8時間以上歩かなければならないハードなコースだ。それでも、彼女はへこたれなかった。それどころか山道の歩き方をマスターしたのか短期間で驚くほどに違和感なく不安定な足場をスタスタと歩くようになっていた。そしていつでもにこやかに楽しそうだ。

 温泉の洗い場で貧弱になった自分の体を眺めながら、富士登山を思うと
「大坪千夏さんのスピードについていけるかな〜」
と心配になった。

  取材の日、下吉田の駅で大坪千夏アナ、そして新たに参加する渡辺和洋アナと合流。一合目?となる浅間神社から歩き始めた。驚いたことに、森林に囲まれた気持ちのいい登山道を歩いていたら捨てられた便器がすぐ脇に転がっていた。そして山小屋の工事の時に使われていたのかパイプ管などの工事道具がいたる所に無造作に捨てられていた。ゴミの中にテレビまであったのだからいやはや・・・。 5合目の佐藤小屋に着いたのは午後4時過ぎ。この頃から風が強まり、山頂の方から「ゴゥオー」と不気味な風のうなりが聞こえてくる。佐藤小屋の食事は凄かった。なんと鴨鍋!ビールで乾杯し、幸せ一杯。午前0時30分に起床したが、台風が近づいてきたのか山小屋の表は嵐になっていた。風の強さは真っ直ぐ歩けないほどで、雨は横殴り。大坪千夏さんと話し合った結果、今回のアタックは中止!残念だけれど、この天候でアタックを続行するのは無謀だ。おそらく山頂付近では風で小石が飛ばされているに違いない。体力的に自身のなかった僕には恵みの嵐だった。

 6月23日、前日まで韓国にいた僕は再び富士山の5合目にいた。先週とはその姿を変え、カラッと晴れていた。翌朝、午前1時30分に佐藤小屋から山頂へアタック開始。真っ暗闇の中、黙々と歩く。五合目から1時間程歩いたのか、草木の生存が限界である標高まで登ってきた時に大坪千夏さんが
「ここが森林限界ですね!」
と突然草木がなくなりガレ場になった辺りを指差した。いつの間にか専門用語まで口にするようになっている。彼女のアウトドア熱は本物だ。そして、いつでもそうだが、彼女と山に登ると心がいやされる。どんなに疲れていてもその疲れがいつの間にかなくなっている。彼女の笑顔にこちらまで楽しい気持ちになる。彼女の暖かさがホッと安心させてくれるのかもしれない。だから僕は千夏さんと山に登るのが好きだ。とてもとても大切な大切な時間。 

 7合目辺りから温度が下がり佐藤小屋で12度あった温度も7度まで下がってきた。そして風の強さ。ただ、日の出は美しかった。富士山は独立峰。視界を阻む山々が回りにない。天候さえ良ければ伊豆半島まで見渡せる。ひたすら登りが続く富士登山では、この絶景で救われる。アタック開始から11時間、我々は富士山山頂の鳥居をくぐった。寒さでダウンジャケットまで着用。山頂は山小屋が並び、山頂から捨てられたゴミが眼下を覆っていた。夏になれば自動販売機がズラリと並び、人人人の渦。昨年8月は8合目から山頂まで渋滞で6時間ほどかかった。ゴミ、登山者の渋滞そしてジュースなどの自動販売機。何人もいた外国人登山者の目にはこの人工的な山、富士山はどのように映ったのだろうか・・・。山頂の山小屋を横目に火口へと向かった。山小屋の裏へ回ったら、突然、深くえぐられた火口が目に飛び込んできた。山頂までゴミばかり見てきた千夏さんは「アー 凄い!」と涙目になりながら感動してくれた。まだまだ、富士山には人を感動させる魅力がある。僕はそんな千夏さんの顔を見ていたら、この見慣れたはずの火口の迫力に感動していた。感動は新たな感動を呼ぶ。素晴らしい連鎖反応だ。下山中はゴミを拾った。ゴミ袋がすぐに一杯になったが、でも諦めてはいけない。僕はエベレストに散乱しているゴミにショックを受け、それから清掃登山を始めた。大切なのはショックを受けること。この富士山のゴミから日本の姿が見えてくる。変わりつつある日本人の環境に対する意識。富士山は日本人の環境意識に対するバロメータだ。必ずいつの日か世界に誇れる富士山にしたい。山頂で目を潤ませながら感動してくれた千夏さんの顔を眺めながら自分にはなにが出来るのか、そしてなにをするべきなのか、を考えていた。

2002年7月6日
野口健