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体と会話できずABCに戻る


 9月16日、C1へと向かった。途中まで高畑隊員が見送ってくれた。C1までは極めて順調。一時間以上前に出発していたスイス隊に追いついたものの6000mを越えた辺りから急にブレーキがかかる。

 体が思うように動かず、首から下が他人の体のようになっていくのが分かった。

 C1のテントに着くなり手足がしびれた。その夜が酷かった。意識がもうろうとしていくのが自分でも分かり、同時に吐き気に襲われ、この日はほとんどなにも口にしていなかったので、胃液だけを吐き出すのだが、吐いても吐いてもスッキリしない。そして目の前の景色が揺れて見え出した。以前、登山家の小西浩文さんが襲われた症状と同じだ。パルスオキシメータで血中酸素濃度を計ったら63パーセントという数字にショック。雪崩れの音が近くで鳴り響くが、もう恐怖感もなくなっていた。胸ポケットに僕のお守り達がいるので手を突っ込み握りながら
「どうにでもなれ!」
と声だけは出していたような気がする。

 翌朝、他の登山隊が
「雪崩れが危険だ!」
と撤退していくなか、下山する余裕もなく、また、どうしてもC2までは到達したい。しかし、これがいけなかった。その日は地吹雪が酷くテントから一歩も出れず、雪で押しつぶされていくのだが、体がなかなか動かず、どうすることもできず、そして再び、酷い頭痛と吐き気、そして顔の浮腫み。胃液を吐いていたら、目の前の雪が赤くなった。吐血だ。

 9月18日、早朝、もうダメだとシェルパに伝えABCへと下りことした。2人のシェルパ達に支えられながら、7時間以上かけてABC着。

 どうしてこうなったのか、正直分からない。とにかく、今はダメージを受けた体を休ませること。このABCで体制をたてなおしたい。

2002年9月18日
シシャパンマ アタックベースキャンプにて 野口健