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浮き沈み七度

 シシャパンマから戻ってきて一週間が経過。この間にふじみ湖に訪れ、その翌日から病院での検査。上からも下からも体内にカメラを入れ、それは、脂汗を額ににじませながらの検査だった。7月下旬からの体調不良がはっきりした。胃の粘膜を荒らし、そこから出血していることがわかった。どおりでトイレにいくといつも黒いものがでてきたわけだ。胃にいくつかの穴が開いていたそうだ。そして、肺胞の炎症による心肺機能の低下。体が悲鳴を上げていたのに、聞く耳を持とうとしなかったつけだ。

 7月下旬から蕁麻疹に悩まれていたいたが、今思えば、あの時にしっかりと検査していれば、シシャパンマでもう少しは頑張れたかな〜と、後の祭りだわな。おかげでしばらく運動禁止、食事制限あり、とまるで病人のような生活を送っていますが、シシャパンマ遠征も予定よりも2週間程早く帰国したため、仕事もなく、犬のサクラとの散歩以外は運動という運動もせず、毎日をノンビリ過ごしています。

 医者からは
「ストレスが一番いけないなにも考えないほうがいい」
と、言われたので、その通り緊張感なく、過ごしている。この数年間にはなかった時が止まったような毎日。ボケーと今後の生き方など考えてみたり、自分がなにを一番やりたいのか、などなど自分について考えてみたが、そんな日々の中で一つ発見があった。

 今までいかに自身について考えていなかったということと、自身の体に対して無頓着だったということ。まだ、そんな年でもなかろうと、闇雲に走ってきたけれど、時には自身を振り返ることも必要なんだ。シシャパンマのキャンプ1で高度障害にやられ、ABCまでなんとか下り、一人テントの中でこのまま登山を続けるのか、断念するのか、その決断に苦しんでいたその時にある人からメールをいただいた。
「私は、人生は人に見せるためのものじゃないっていつも自分をいましめます」
僕はこの言葉にハッとさせられた。そして翌朝、仲間達に
「シシャパンマ挑戦を断念する」
と、伝えた。

 この言葉は決断に苦しむ僕を救ってくれただけではなく、まさに自分が見失っていたその部分を自覚させてくれたのだ。アルピニストとして屈辱にまみれたこのシシャパンマ敗北。しかし、この敗北によって今まで見失っていたものが、僕には確かに見えた。人生、何事も無駄なことはない。

2002年10月8日
野口健