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世界遺産を目指す「熊野古道」

 世界遺産としての登録に向け、準備が進む「熊野古道」。「紀伊山地の霊場と参詣道」として、平成12年にユネスコの世界遺産暫定リストに掲載された。その「熊野古道」の麓、紀伊長島で「世界遺産登録推進三県協議会リレーフォーラム」が行われ、僕もこのフォーラムに参加させて頂いた。

 まずは講演で、白神山地や屋久島での体験談、特に白神山地で知り合ったマタギの工藤さんとの交流の中で知ることができた「世界遺産になってしまったがために破壊されていく現状」などを話した。そして、講演後は三重県の北川知事や大学教授、また国連職員でユネスコ世界遺産委員会の方々とのパネルディスカッションが行われた。

 年間6〜7万人ほど訪れる「熊野古道」。しかし、もし世界遺産に登録されれば、そのとたんに訪れる観光客数の桁が数十万になるだろうと予測されている。すでに世界遺産に登録された屋久島や白神山地では
「世界遺産にされて迷惑だ!」
と、怒りの声が僕に向けられたことがいく度もあった。
「野口さんから、環境省や政治家の方に伝えてください。屋久島の森は死にかけているんです!」
と・・・。「屋久島」も「白神山地」も条例を作ってみたものの、なんら強制力のない規則は機能していなかった。登山許可書を持たない登山者や、後を絶たない密猟者。マタギの工藤さんがそんな彼らに注意しても、
「お前らにそんな権限があるのか!」
と逆切れされ、無視され、時に身の危険を感じるという。そして、無責任な彼らが残していくゴミの山。世界遺産に登録される前までは、白神山地を心底愛す者だけが訪れていたが、いまや観光バスから降りてくる団体客が高山植物を摘みながら行き来している。

 自然を守っていくための社会的なルール作りの必要性を北川知事にも訴えた。北川知事もおおむねその重要性を理解してくださっていたように受け取れた。そして、フォーラムに参加している県民や三重県県職員に向かって
「野口健さんのご指摘も、みなさんの理解が必要です。国道沿いの看板も控えてくださいよ。地元の方々の協力無しに「熊野古道」の世界遺産はありません。私は腹をすえてやっていきます」
とおっしゃっていた。僕の印象通り単刀直入にはっきりとお話しをされる方だった。今後とも「熊野古道」と世界遺産を目指す三重県県政がどのように舵取りをするのか熱い思いで見守っていきたい。

 名古屋から紀伊長島までの車窓からの景色は素晴らしかった。白神山地や屋久島とはまた異なり、美しい日本古来のわびさびを感じさせる自然環境の中にも日本の文化が共存している。人々の生活と自然がつながっていた。この奥はどうなっているんだろうと、胸がときめいた。魅力的な場所は訪れた瞬間に気がつくもので、すぐに、
「熊野古道を歩きたい!」
と感じた。世界遺産に指定されるような場所は、やはりそれだけの魅力がある。故に、報道され熊古道も有名になるとおとづれる人が爆発的に増えてしまう。世界遺産に登録されるということは日本だけの財産ではなく、世界の共有財産となる。世界遺産に登録されたために自然が犯されることがあってはならない。

 琵琶湖でのバス釣りの再放流(リリース)が滋賀県条例で禁止されたり、歩きタバコの禁止条例の実施されたことの賛成、反対の報道を見ていて、両者に利害関係はあるのだけれども「持続可能な社会環境」を根底において判断できる社会になってほしいと願い、そのために力の限りがんばりたい。

2002年11月3日
野口健