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2003年 私の進む道 前編

 新年あけましておめでとうござます。
また新たな年が始まった。心機一転、心新たにフレッシュな気持ちで今年も走っていきたい。2002年も目まぐるしく走りつづけた。


 1月カトマンズにて

 まず1月には橋本龍太郎氏とカトマンズで過ごした。橋本氏が援助している小児科病院に訪れた時に、橋本氏が報道陣がいないのを確認すると同時に今にも生き絶えてしまいそうな未熟児に触れながら目に涙を浮かべている姿を横で眺めていた。いつもツン!としている橋本氏の本当の姿を見た気がした。そしてその直後に心臓の病に倒れ緊急入院。僕に複数の報道陣から
「24時間いつでも連絡がとれるようにしてほしい」
との連絡が入った。これはただ事じゃないと、寝られない夜を迎えた。だからあれだけ
「タバコはやめてください。健康管理してください」
と迫ったのに
「うるさい奴だな〜」
と聞き入れてもらえなかったことが残念でまた腹もたった。
エベレストの清掃活動中に橋本氏退院のニュースを聞き、早速ベースキャンプからご本人に衛生電話を入れ
「だから言ったじゃないですか!もうタバコはダメですよ!ダメ!」
と強くお願いしたら
「自分の事を心配しろ!」
と返された。しかし、今度は秋のシシャパンマ遠征で僕が体を壊し入院を余儀なくされた時に、
「いいか!もう無理するな!お前、死ぬんじゃないぞ! 本当だぞ!」
と目を真っ赤にさせながら本気で心配してくださったのも橋本氏だった。お互いに体を壊し、反省しなければならないが、男同士の突っ張りあいだったのだろうか、橋本氏との絆がさらに深まった気がする。

 この春、京都で開かれる水の環境フォーラムには議長として参加される橋本氏。環境問題になかなか本腰を上げようとしない日本の国会議員達の中で橋本氏ほど本気で環境問題に取り組んでいる国会議員は他にいないだろう。議長として「水」の重要性を世界に訴えていただきたい。


 3度目のエベレスト清掃登山

 3度目のエベレスト清掃登山は2トン強のゴミ回収に成功。カトマンズで開かれた記者会見でネパール人記者から
「エベレストのネパール側にはゴミなんかないよ!」
と指摘されていたが、チベット側よりも多くのゴミを回収したのだから、なんのこっちゃ!しかし、大成功かと言えばそう言いきれない。韓国隊員の李さんの遭難があり無事に救出できたものの隊長として隊をコントロールできなかった責任の重さ、そして清掃隊という巨大で多国籍集団を仕切る難しさを痛感した。しかし、同時に
「これは俺じゃなきゃできないぞ!」
とやりがいも感じた。しかし、エベレスト清掃活動も時になかなか理解されないことがある。外国人登山家が
「エベレストに野口隊のゴミが大量に捨てられている」
との情報を世界中に発信していた。ネパール山岳協会方々と相談しながら実際に捨てられているとされた場所を調査したが、指摘のゴミなどなかった。そうしたら、
「氷河が溶けて野口隊のゴミは氷河湖に沈んだ」
と反論され、いやはや、なんとも醜い人間の争いごとに巻き込まれてしまったと悲しかった。物事にはなんでもそうなのかもしれないが、受け止め方には両面性がある。環境問題への取り組みに賛同してくださる方々もいれば、逆に批判的になる方々もいる。確かにエベレストの清掃活動が行われてから始めてエベレストにゴミが散乱している事実が公となり、過去の登山隊のモラルが問題視された。それに対する反発もあったのだろう。しかし、過去の積み重ねがあって始めて今現在があり、そして将来があるわけだから、過去から学ぶことは大切だ。今の感覚で過去の人々の行為についてとやかく批判はできない。特に環境問題はそうだ。もし僕が20年前にエベレストに挑戦していれば同じようにゴミを捨ててきただろう。環境問題に対する人々の意識が今と20年前とでは大きく異なるのだから当たり前だ。そしてよく「登山家は山が好きで山に行くのに何故 ゴミを捨てるか分からない」と講演会場で指摘させるけれど、自分達が住んでいる町にポイポイとゴミを捨てる人たちは自分達の町が嫌いなのだろうか。たまたま僕たちにとって山は生活の場であり、町に住んでいる方も町が生活の場だ。エベレストでゴミを捨てる登山隊の国にいけばやはりその国が汚されていて、きれいにゴミを持ってかえる登山隊の国にいけばやはり環境問題に対する意識が高かったりする。つまりは国民性の問題じゃないだろうか。登山家だけにモラルを求めるのは違うと僕は思う。


 湧水湖との出会い

 日本に戻った僕にある湧水湖との出会いがあった。茨城県笠間市にある「ふじみ湖」だ。このホームページのカキコミ広場に寄せられたメッセージの中から「ふじみ湖」の存在を知った。さっそく、現地に向かった。正直、東京から車で1時間30分足らずで
「そんなに美しい湖なんかあるのかな〜」
とたいして期待していなかったが、しかし、目の前に展開したエメラルドグリーンの「ふじみ湖」にただただ見とれてしまった。しかし、信じられないことにその「ふじみ湖」の水を抜き産業廃棄物最終処分場する作業が着々と進められている。水源地でもある湧水湖をゴミで埋めてしまう不可解な行動。今年は京都で水の環境フォーラムが開かれるというのに議長国である日本で水源地が殺されようとしている。ヨーロッパなどでは水源地を埋めたり、その付近にゴミを埋めることを禁じている国もあるなかで、茨城県の行いは時代錯誤もはなはだしい。そして充分に地元住民に説明もなく「ふじみ湖」には目隠しネットが張られ中の様子を隠すかのようにこっそりと水抜き作業が続いている。そんな中、業者と行政の談合話が連日のように新聞やテレビで大きく報道された。このままふじみ湖を公共事業の餌食にしてしまっていいのだろうか。「ふじみ湖」を、取り巻く環境が日本社会の自然に対する接し方を象徴しているような気がしてならない。人々はいつまで同じ過ちを繰り返すのだろうか・・・。


 地球温暖化

 地球温暖化をテーマにアフガニスタンやスイス、アメリカ、ツバルに訪れたのも貴重な経験となった。特にアフガニスタンは衝撃的だった。難民キャンプに集まる難民の多くが戦争難民ではなく生態系難民だった。自然環境の異変により、その土地を追われた人々だ。温暖化により山に雪が降らなくなった。水源地である山が枯れ川や井戸が干上がり旱魃の被害が深刻だ。老人に
「一番怖いものはなんですか?」
と質問した際に
「水がないのが一番怖い。我々は戦争の中で生き抜いてきた。しかし、水を失えば死ぬしかない。我々はここで死を待っているだけだ」
と村はずれに案内された。墓地であったが子供の墓がいくつもいくつも並んでいた。訪れた難民キャンプでは毎月平均して80名の子供達が水不足によりその命を絶っている。地球温暖化の原因が二酸化炭素だとすればアフガニスタンの人々がどれだけ二酸化炭素を排出しているのだろうか。我々、先進国がその豊かな生活を追及するがあまり大量生産、大量消費に明け暮れたつけがアフガニスタンの干ばつならば我々は加害者だ。死に続けている彼らにかけられる言葉など僕には見つかるはずもなかった。海面上昇で国土が失われつつあるツバルも同じだ。

 このまま海面上昇が続けば50年後には完全に水没すると言われているツバル。実際に海岸線は波に削られ無数のヤシの木が倒されていた。島の子供達が
「僕達は車やバイクには乗らないよ。だって自分達の国が海に沈んでほしくないから」
と語ってくれたが胸が痛む言葉だった。それは本来僕らの言葉のはずだ。そして日本も他人事ではない。海面が1メートル上昇すれば伊勢湾をはじめ日本の各地で水没の恐れがある。

 危機的な状況でありながらなかなか危機感を抱こうとしない地球温暖化問題。しかし、世界のいたる所で地球温暖化の被害をこの目で確認し、その悲惨さを一瞬ではあったが体感できたことが僕には大きな出来事だった。今年はさらに世界をこの体で感じていきたい。エコツーリズムを積極的に行っているアフリカのタンザニア、ヒマラヤの氷河が温暖化により後退し、毎年水害の被害にあっているバングラディシュ、ガラパゴス、そして再びアフガニスタンに訪れてみたい。


2003年1月1日
野口健