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アイスフォール越え





 4月24日、午前5時過ぎ、キャンプ1を目指してBCを出発。いよいよ一年ぶりのアイスフォール越え。いつもはどこかで嫌だな〜と感じていたアイスフォールに今回はなぜか早く行きたい、という思いが強かった。BCに到着した次なる目標はキャンプ1(6000m)。また先発隊の高畑隊員や田附隊員の上部での勢力的な活動に一日でも早く彼らに追いつきたいという気持ちが強かったのかもしれないが、ゆっくりゆっくり登ろうと思うのだが、気がつくとスピードがでてしまい、李隊員らとの距離がひらいてしまった。谷口隊員からも「健さん、ちょっと早くない」と声をかけられるのだが、焦りからなのか判らないが先へ先へと進んでしまった。結局、キャンプ1到着までに李隊員らとの距離は一時間以上も差がひらいてしまった。キャンプ1到着は9時45分。既に6000mまでの高所順応を済ませている高畑隊員からも「健さん、早すぎですよ!ちょっとおかしいですよ!」と言われたが自分でもその好調さに驚いたほど息が上がらなかった。それにしても昨年はどことなしか頼りなかった高畑隊員がどことやら。その表情からも堂々とした力強さが感じ取られた。男の顔であった。

 アイスフォールを超えるのは緊張するもので、21日に氷柱が崩れてシェルパが押しつぶされた現場は背筋がゾクッとした。我々はロシアンルーレット・ルートと呼ぶこのアイスフォールはBCを出発する際にも、この無宗教者の僕でさえ、真剣に祈りをあげてしまうほど運に左右される危険地帯だ。昨年も李隊員、高畑隊員と共にアイスフォールを超えている最中に目の前で氷河が崩壊し、あと10mも前を歩いていたら命はなかった。そんな危険地帯を通過中、キャンプ2で活動していた田附隊員が降りてきてすれ違ったが、彼の背負っている大きなザックの中身の大半がキャンプ1とキャンプ2で排出されたトイレの中身なのだ。自ら「うんこ隊長」と呼ぶのだが、しかし、このアイスフォール地帯で必死に「うんこ」を運び降ろす姿に頭が下がった。「命を賭ける」という言葉がけっしてオーバーでないこの地で「うんこ」に命を賭けながら運び降ろす姿はかっこ良かった。

 午後1時30分、BCに戻る。さすがに疲れがどっとでたのかそのまま夕食まで寝袋のなかでぐっすりと眠り込んだ。残念なことにまた我が隊のシェルパ一名が体調を崩しBCを下っていった。吐き気と頭痛、そして胸の苦しみによるもの。これで早くも三名のシェルパが隊を離れた。彼らの一日も早い回復を祈るしかできないのが、なんとも空しい。次の目標はキャンプ2だ。26日にキャンプ2を目指して再びBCを発つ。


 

2003年4月24日
エベレストBCにて野口健