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ウンコレポート





 ウンコの回収はアメリカ製の便器及び袋を使っている。便器はもちろん洋式。これがまた冷たい。当たり前だがプラスティック製の便座はマイナス15度を越えるC1やC2では座るのにも覚悟がいる。また、吹雪の中では上半身はダウンに包まれているが下半身はなんとも無様な姿で肌がむき出し、寒々しい格好で用をたさなければならない。

 トイレのとき、気になるのは人目。ベースキャンプではトイレ用のテントがあり人目は気にならない。むしろ臭いがこもるということでわざわざ青空トイレをシェルパに作ってもらった隊員もいる。しかし、C1やC2においてトイレ用目隠しテントはない。以前は自由にそれぞれの隊がそれぞれの場所を決め用をたしていたようだが、大便を持ち帰るというのはあまり例のないことであり、便器の設置場所からこちらから提案しなければならなかった。

 C1において、はじめはテントとテントの間においてしていたがどうも人目が気になる。大便をしながら誰かと目が合うと、「ナマステ」下半身を出しながらの挨拶をしてしまう。やはり恥ずかしい。欧米人は女性も結構平気でそこらで便をするが、僕たちは同じようにはやはりいかない。行動中など仕方ないときはあるが人目を気にするのが日本人だろう。結局C1では雪の塊を積み上げ下半身を隠すような壁をシェルパと協力して作り上げた。顔だけ見えるのがまたいい。

 C2のトイレも目隠しにはだいぶ考慮した。テント場の裏に目線が来ないような平らな場所にトイレを設置した。しかし行くまでには足元が悪すぎた。右手にクレパス左にモレーンの山。夜はとってもじゃないが行けない。仕方なく足場を作るためモレーンの山を削り、トイレまで行きやすいようにした。トイレの場所は一段下がった場所にあるためそれほど目線は気にならないが女性もいるということもあって石積みの壁をこれもシェルパと作った。何気にこの石積みの壁が壊れる。平らな石で作ればいいがそうはいかないそこにある石で作らなければならないため不安定な箇所もある。強風で倒れたこともあった。しかしながらエベレスト、ローツェ、ヌプツェというヒマラヤの代表格の山々を眺めながらのトイレは格別なものである。

 トイレにはルールがある。袋の交換時期についてである。大便を3回したら新しい袋に変えるというルールを作った。袋の交換は慣れれば簡単であり、習慣になってしまえばそれほど手間ではない、しかし夜中に便をもよおしたり、悪天候のときにトイレにいきたくなったりするとルールを守らなくなる人が出てくるようだ。4回以上便をした場合起こりうるのが、防水の運搬用袋に便が入った袋を入れられなくなることだ。そうすると大変で水分が昼間融けると出てきて臭うのである。通常は黒いその防水用袋に入れた上で最悪、ザックに漏れないように市販の大きな防水袋に入れるのだが黒の防水袋に入らない場合は普通のビニールにまた包まなければ不安で運ぶ気にならない。普通のビニールに入れるとベースキャンプでまとめてたるに入れる場合融けて液体が出てきているそのビニールを外すのがまた面倒で嫌な作業なのだ。基本的に用意したアメリカ製の袋は見た目、ただのビニールなのだが実はこれが「トウモロコシからとれた炭水化物からできており年月が経つと分解され土に戻る」と説明を受けている。便器にかける最初の緑色の袋の中にも何やら粉の薬が入っていて「便を土に帰りやすくする成分が含まれている」と聞いた。実際アメリカの国立公園などでも使われている優れものだ。しかし水分が溢れてしまったといってただのビニールを使っては土に戻らなくなってしまう。その点を考慮して「汚いなぁ」と思いながらもベースでしっかりとただのビニールをはずし分解する袋を独立させた。横でシェルパがニコニコ笑っていた…。お前らのも運んでいるのに…。ここまでやった僕を褒めたいくらいだ。一回目5キロ、二回目20キロ、三回目12キロ4回目もなんと20キロ。ちなみに谷口隊員も一回、高畑隊員も一回下ろしている。

 隊員が下ろすのには理由がある。ネパールはカースト制度が布かれており、シェルパ達もそのカーストの下で生活している。シェルパはトイレに関する仕事を自分達の家においても、チベット人や、自分達よりもとても下のカーストの人に任せる。つまり、ウンコには自分達のも含め、彼らは携わらないのだ。おかげで隊員以外のシェルパのウンコまで僕達隊員で下ろすということになったのだ。カーストは本当に細かく分かれているらしいがウンコを運ぶカーストもあるという。実際ベースキャンプのウンコを下の村に下ろしている人たちがいるがその人達はやはりチベット人であったりウンコを運ぶカーストの人だったりするらしい。ちなみに僕達外国人はカーストではど真ん中に位置するらしい。

 C2やC1から便を下ろすときは絶対に早朝スタート。融けるのをできるだけ避けるためだ。上がって来る他の隊に迷惑をかけないためと、自分も嫌だからだ。防水に防水を重ねても入っている中身が中身だけあって、ザックの中身はウンコだけにする。ザックの上蓋に最小限の水分と行動食、カメラなどを入れるが、もしものことを考えると臭いが移らないためにもウンコ以外はザックに入れたくなかった。結局もれることはなかったが気持ちはいいものではない。また、ウンコ以外はザックに入れないということは重心が極端に下になる。荷物を背負うとき、重心は上過ぎても下過ぎても疲れるのである。ウンコを下ろすに当たっては、自分で言うのもなんだが、結構な苦労があった。自分なりに良くやったと思う。

 今回便に携わって、この「大便できるだけ持ち帰り」という事がエベレストいや、ヒマラヤ登山のスタンダードになり、ヒマラヤの水を守っていける、そんなことに少しでもつながったらいいなと独り言のように思った。登山中心で命が大事である。しかしそこに余裕があってこそ格好良さみたいなものが生まれてくるのではないだろうか。東京農業大学はサミットしながら便の回収をしている。格好いいと思った。登って「すごい」と、持って帰って「カッコいい!」2つを掛け合わせた隊ではなかろうか。

 97年に見たノースコルでのウンコの思いを今回運びおろすことによってしっかりと果たすことができたような気がする。



2003年5月17日
ウンコ隊長 田附秀起