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南島での新たな対策




 この別天地である南島も観光客が増え環境破壊が深刻化している。戦後に放牧したヤギ(現在はすでに南島では駆除された)や旅行者が踏み荒らし、雨水などでさらされて表土が海へと流れ出してしまった。2年ほど前から植生回復事業が行なわれ、回復に向かっているけれど、同じ場所で地主の林野庁と東京都が違う方法で植生回復事業が行なわれている構図がいかにも縦割り行政であり、お互いの意地の張り合いにしか映らなかったが、それでもなにもしないよりましなわけだ。そして次にラピネ(石灰岩が雨や風で浸食され尖った岩)がやはり歩行する旅行者によって削られてしまっているのだ。そして人の衣服や靴に付着して持ち運ばれてしまった移入植物の種。移入植物の分布の広がりも深刻だ。

 石原都知事は
「20年前初めて南島に来たときは、砂辺一面のハマゴウからハッカの匂いが漂っていてね。うたた寝から目が覚めると、どこか違う惑星にいるように思えたほど美しかったよ」
と話せば、近年になって訪れた南島の印象を
「息をのむほど美しかった南島の地形が変わってしまった。久しぶりに行ってみたら唖然とするぐらいダメになっていた。きれいなところだから噂を聞いてみんな勝手にやってくるし、島の人もガツガツ人を連れてくる。

 あそこにはカミソリの刃のような岩があるでしょう。ほかにはクレタ島にしかないらしいんだけれど、それが全部潰されちゃっている。植生だって、来た人の服にくっついていた植物の種が落っこちるから 変わってきているし。まあ、植生はもとに戻るかもしれないけれど、岩は欠けちゃったらもう元に戻らない。残念だ」
と嘆いた。そして
「だから制限する。やっぱり数を制限しないとダメですよ。人間が入ったら必ず荒れるんだから。とにかく制限しなきゃ、みんな勝手に来るし、自然のありがたみだって分からないんだから」
と、東京都は石原都知事の強い要望もあり、2003年4月から南島と母島の一部を都が自然環境保全促進地域とし、適正な利用の為のルールを定めた。一定の入島禁止期間を設けたり、一日あたりの最大利用者数の上限を定めたりするなど、対象地域の立ち入りが制限された。また、その対象地域に入る場合は、都が認定した東京都自然ガイドが同行しなければ入れないようなエコツーリズム制度がスタートした。本来、地主である林野庁や国立公園の管轄である環境省が取り組まなければならないのだが、国がなにも動かない以上、石原都が行政初の行政主導によるエコツーリズム制度導入に踏み切ったのだ。

 しかし、
「人間の命より自然が大切なのか」
などと自然保護を毛嫌いしている島民も多い。環境保護といった流れへの抵抗感。年間2万人前後しか観光旅行者が訪れない小笠原諸島では環境保護により入島制限などによりお客さんの足が遠のくんじゃないかということらしい。そして青島都政時代に決まりかけていた空港建設も石原都知事の「凍結」発言にあっけなく都は撤回を決定した。当然、島民の中からは反発がでるが、また同時に故郷の自然を見直す島民もでてきている。自然保護じゃ食べていけないと感じていた人の意識も少しずつ変わっている。小笠原は自然を守りながら、活用していくしかないということなのだろう。



2003年7月22日
野口健