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「マナスルへの想い」

 昨年に続き今年も新年早々、伊豆の伊東にあるヒポクラティクサナトリウム(断食施設)に10日間入った。一昨年から始めた断食トレーニングも今回で5回目。特にヒマラヤの8000M峰へのチャレンジがあった昨年は遠征前後にしっかりと断食し血液の浄化に努めた。永くヒマラヤ登山を続けていくためにやっとみつけた僕なりのやり方だ。ヒポクラティックサナトリウムともう一箇所僕には駆け込み寺がる。八ヶ岳の渋御殿湯という温泉宿だが、ここもよく疲れ果てた時に一人で時を過ごす。16歳の時の人生初登山が八ヶ岳の天狗岳。その登山口にある渋御殿湯に泊まりながらボーとしていると登山の世界に希望を求めがむしゃらに登り始めたあの頃の出来事がまるで昨日のように鮮明に思い出せる。あれから16年。本当に色々あった。得たものもあれば失ったものも多い。そしてけっして忘れてはいけないこともある。渋御殿湯に泊まりながらそんな事を振り返りながらボーと過ごす。また、僕にとって心底安心し、ゆっくり心から休めるのは伊豆の断食道場と渋御殿湯しかない。僕にとって一人で過ごす大切な場所です。

 確か昨年の今頃も断食道場にこもりながらシシャパンマ(8013m)のリベンジを控え、前回命を失いかけただけあって不安のなかでトレーニングしていたことを思い出す。ヒマラヤ、特に8000Mの世界は特別な領域だ。またあの特別な世界に足を踏み入れることが出来るという希望もあれば、同時に恐怖でもある。エベレストを初登頂したヒラリー氏は8000Mの世界を「死の匂いがする」と言ったそうだが、その世界に足を踏み入れるまではヒラリー氏の言葉の意味が分からなかったけれど、今はよく分かる。だからこそ魅せられるのかもしれない。時に音がなくなる。まったく無音になるとシーンとした音だけが聞こえてくる。不思議なことにシーン、シーン、シーンと鳴る。そして匂いもなくなる。そして最後に命の気配がなくなる。死の世界への抵抗かもしれないが、酸素マスクの中であえて大きく「ハーハー」と息遣いし、俺はここで生きているぞ!と誰を相手に訴えているのか分からないが、きっと見えない誰かに必死に生きている証を伝えている自分がそこにいる。今年もあと4ヵ月後には再びあの8000Mの世界へと足を踏み入れる。

 マナスル峰は50年前に日本隊によって初登頂された峰だが、「マナスル」という美しい響きを始めて聞いたのはいつなのか記憶にないけれど、いつもマナスルという響きは頭の中にあった。僕自身、まだマナスルを見たことがない。ただ、美しい響きと裏腹にマナスルは雪崩多発地帯。多くの登山家が命を落としてきた。ヒマラヤ山脈の中でも特に雪が多いエリアだ。山頂に到達できるか出来ないかは、雪のコンディションが最大のテーマとなるだろう。これからの4ヶ月、どのように過ごすのか、一日も無駄には出来ない。2005年5月16日にシシャパンマの頂で「次はマナスル!」と叫んでいたが、マナスルの頂にいる自分自身の姿をイメージしながら、一日一日を大切に過ごしていきたい。