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「温暖化で氷河湖決壊の危機 〜G8環境大臣会合で議論要望〜」
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  5月24日から神戸でG8環境大臣会合が始まるが、その前日に「G8環境大臣会合記念特別シンポジウム〜気候変動と水〜」(主催・地球環境国際議員連盟・環境省・地球環境戦略研究機関・日本水フォーラム)が行われた。このシンポジウムは、G8環境大臣会合が神戸で開催される機会をとらえ、「気候変動と水」をテーマに、ラジェンドラ・K・パチャウリさん(IPCC(気候変動に関する政府間パネル)議長)、マーガレット・キャトレイ・カールソンさん(世界水パートナーシップ顧問)、西岡秀三さん(地球環境戦略研究機関研究顧問)、佐藤廣士さん(神戸製鉄所代表取締役副社長)、パネルコーディネーターの浜中裕徳さん(地球環境戦略研究機関理事長)そして私(野口健・アルピニスト)の6人で行われた。

シンポジウムの模様

ヒマラヤ地域の氷河湖問題について訴える野口

  この一月半(4月上旬〜5月中旬)ヒマラヤからバングイラデシュまで旅をしたのもこのG8環境大臣会合の議長総括の中に「ヒマラヤの氷河の融解による氷河湖の決壊対策」を組み入れて頂きたかったからである。その為にも現場で起きていることを会場で訴える必要があった。
  「北海道洞爺湖サミット」で「氷河湖問題」が取り上げられる為にはまずは神戸で開催される「G8環境大臣会合」の議長総括の中に氷河湖問題を組み入れて頂ければならない。順序としては「G8環境大臣記念特別シンポジウム」→「G8環境大臣会合」→「北海道洞爺湖サミット」となる。

 まずは「シンポジウムからのメッセージ」の中に氷河問題が含まれなければ「G8環境大臣会合」で議論されない。そして次に「G8環境大臣会合」の議長総括に氷河湖問題が入らなければ「洞爺湖サミット」にこのテーマは届かないだろう。これら1つ1つの積み重ねなのだ。コツコツと富士山やエベレストで清掃活動をしてきたのと同じことだ。このコツコツの後に大きな変化があるのだ。せっかちな私にはなかなか大変な道のりであるが変化の陰にはこうした地道な取り組みがあるもの。

 シンポジウムで特に強調したのが地球温暖化の影響でヒマラヤ地域の氷河の融解が進み、さらなる氷河湖の決壊から大規模な洪水の恐れが高まっている事だ。そしてG8環境大臣会合や北海道洞爺湖サミットで、ヒマラヤ地域の温暖化による影響について話し合って頂きたい、そして具体的なアクションを起こしてほしいとお願いした。

 エベレスト南方にあるイムジャ氷河湖は1960年代半ばから出現し、直径1キロ、最大水深90メートル、3580万トンの水を蓄えるまでになっている。これは黒部ダムの5分の1で、東京ドーム32個分。そのイムジャ氷河湖は17年の間に35%も拡大。今月中旬に訪れたロウアー・バルン氷河湖(マカルー峰の南10キロにあり標高は4570b)も16年間の間に45%拡大しているのだ。どちらも決壊すれば数万の人々が被災するだろうと指摘されている。
 
  WMO(世界気象機関)は、このまま地球温暖化が続けば2035年にはヒマラヤ地域からすべての氷河が消滅すると予想している。パチャウリ氏が議長を務めるIPCCも第四次報告書で2035年までにヒマラヤの氷河は五分の一になると報告している。ICIMODO(国際総合山岳開発センター)によると現在、ヒマラヤ地域には1万5千の氷河と9千の氷河湖があるとのこと。またその中でも最低200の氷河湖が近々、決壊するであろうと警告している。

 いつ決壊するか分らない巨大な氷河湖の下流で多くのヒマラヤの民が怯えながら過している。決壊してからでは遅い。時間がないのだ。決壊対策のアクションプランとしてシンポジウムでは「日本政府」や「洞爺湖サミットからのアクション」として主に以下の3つを要望した。

(1)ヒマラヤ地域の氷河湖のモニタリング調査の実施
(2)ハザードマップを作成して頂きたい 
(3)危険であると判断された氷河湖に対して、根本的な対策を取って頂きたい 

 

 特に(3)の決壊対策であるが、以前オランダ政府が氷河湖に水門を設置したように日本政府も決壊した影響を早急に調査すると共に、増水した氷河湖の水を抜くなどの対策を取って頂きたい。先に述べたようにイムジャ氷河湖やロウアー・バルン氷河湖はこの15〜17年の間に35%〜45%ほど拡大したが、しかしオランダ政府によって水門が取り付けられた世界最大級の氷河湖、ツォー・ロルパは2%しか拡大していない。数字の上でも水門設置による効果が明らかになっている。「水門」がいいのか、それとも穴を開けパイプから水を抜くのがいいのか、氷河湖の標高も地形も様々。したがってその方法も様々である。土木関係の専門家を氷河湖に派遣し、決壊の可能性のある氷河湖の湖水をどのように抜くのか調査する必要がある。

 シンポジウムではインド出身のパチャウリ氏が「私の出身はヒマラヤの麓です。年に数回しか帰れませんが、あの美しいヒマラヤを眺めると涙が出てくる。そのヒマラヤの岩肌が冬になっても白くならなくなってきた。雪が降らなくなってきた。またMrノグチがネパールではシャクナゲの花が早く咲きていると話していたがインドでも同じ。春になる前にシャクナゲが咲くようになった。これは明らかに気候変動の影響です」と発言され、故郷であるヒマラヤの異変に心を痛めておられたのが印象的であった。そして「Mrノグチ、ヒマラヤでの活動に感謝します。一度、インドのヒマラヤにも来てください。こちらのヒマラヤ(インドの)も温暖化の影響が深刻です。あなたにはこれからも世界に対して訴えて頂きたい」と力強いエールを頂いた。

PCC議長 ラジェンドラ・パチャウリ氏

 ちょうど1年前に氷河の融解による氷河湖決壊について環境省の記者クラブで会見を行ったが、あの頃は氷河湖問題に対して大きく注目されることもなかった。しかし、この1年間で世の中の氷河湖に対する注目度は大きく変わった。1つのきっかけは「第1回アジア・太平洋水サミット」だっただろうし、また鴨下環境大臣がこの問題に対してすばやく福田総理に提言されるなどのアクションを起こしてくださったことも大きかった。バングラデシュから帰国し鴨下大臣に帰国のご挨拶にお伺いしたら「野口さん、ヒマラヤの氷河湖ですが、解決するまでやりましょう!」と力強いお言葉にどれだけ励まされたことか。  

IPCC議長 ラジェンドラ・パチャウリ氏と

盛山正仁衆議院議員(左)と鴨下一郎環境大臣(中央)と

谷津義男衆議院議員と

桜井郁三環境副大臣と

 また地球環境国際議員連盟の谷津義男会長のご尽力もあってこのシンポジウムに「氷河湖問題」を取り上げることができました。多くの方々のご協力に心から感謝しております。ありがとうございました。私は学者でも政治家でも役人でもない。一登山家にしか過ぎない。そんな私が第1回アジア・太平洋水サミットに引き続きこうして国際会議で発言するのは出すぎた行動なのかもしれない。しかし、「言葉の世界」である会議場に、ヒマラヤやバングラデシュなどの現場で感じてきた危機感を伝えたかった。学者、政治家、役人、そして現場の人間など、そのすべてが連携し一丸となって取り組んでいくべきだろう。これからどのように「ヒマラヤの氷河湖決壊対策」といった具体的なアクションに向かって進んでいくのか、G8環境大臣会合や北海道洞爺湖サミットの場でしっかりと話し合われ、明確な、そして勇気ある政治的決断がなされることを期待しています。

 2008年5月24日 神戸にて 野口健