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野口健からのメッセージ

 
「精一杯もがきたい」


一ヶ月半の遠征を終えカトマンズに戻る日がやってきた。登頂していればなんとも清々しい凱旋帰国となるのだろうが、まあ〜こればっかりは仕方がない。サマ村に下りてから晴天続きだ。上部の方は雪煙を噴き上げているので風が強いのであろうが、今となっては青空がとっても嫌味である。まあ〜永い冒険人生、こんなこともあるさ。

 それにしてもベースキャンプから下りてからサマ村での生活はまるで東京並みにバタバタと一息入れる間もないほど忙しかったがとても楽しかった。マナスルでは雪との格闘の日々であったが、こうしてサマ村で人々の営みに触れていると、あの日々の出来事がまるで夢の中のようで信じられない。まさしく「生と死」の世界のギャップである。この両方を行ったり来たり。これが私の人生なのかもしれない。

 

チャーターヘリに乗り込み、上空からマナスルを眺めていたが、沸々と湧きあがる悔しさを抑えるに一苦労だった。客観的に見ればそう大きく判断を間違えたわけでもないだろうが、しかし、心がどこかで納得していない。つまり不完全燃焼なのである。もっとボロボロになるまで戦いたかった。慎重になりすぎたかなぁ〜とも思う。しかし、死んでしまえば次がないわけで、ここが他のスポーツと決定的に異なる。

 慎重になればなるほど登頂率が下がり、生還率が上がる。無理をすればその分だけ登頂率が上がり生還率が下がる。その狭間を行ったり来たりするのがおそらく冒険人生であろう。どちらに重点をおくのか、その人の判断に委ねられるのだが、エベレスト登頂を目指していた学生の頃と比べれば「えいや!」といった勢い、つまり攻撃的な側面が抑えられているような気がする。

学校の子ども達と
 
  無理をしなければ8000M級の山には登れない。しかし本当に無理をしきってしまうと命を落としてしまう。そのバランスであろうが、極限状態でバランス感覚を保つことは極めて難しい。最終的には自身の勘によって判断を下すのだが、それを信じるほかない。

「次だよ!次にちゃんと繋げればそれでいい」「いつまでも、くよくよするなよ!男だろ!」と自身を叱り飛ばしていた。

 マナスル前に確かカトマンズで「2002年のシシャパンマ峰挑戦時と似ている」といったような文章をブログに載せた記憶がありますが、やはりそうなりました。面白いもので永く冒険を続けていると、なんとなく勝負前にその結末を感じ取ってしまうことがある。本番前から勝負が始まっているんですね。つまり来年のマナスル再挑戦は、今日、この瞬間から挑戦が始まっているのだ。さて、これからリベンジまでどのような一年になるのか、精一杯もがいてみたい。

2009年5月16日 カトマンズにて 野口健