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「空援隊を去るにあたり」



  ヒマラヤでのキャラバン開始直後、私の元に私の事務所経由で空援隊から週刊文春で報じられた疑惑に対する空援隊の対応に関する公式見解が届きました。「これは間違いなく公式見解か」と事務所スタッフに尋ねたら「公式見解として送られてきたものです。間違いありません」との返答にしばし呆然。確かに「空援隊公式見解」というタイトルから文章が始まっていた。空援隊の小西理事長も「あの統一見解の通りにいく」と断言されました。

 理事の一人である私が事前に把握していなかった公式見解(後に統一見解と訂正された)。
私は公式見解の言葉を一行一行、何度も読み返しながら空援隊の理事として私が取り組んできたテーマが全て否定されたかのような挫折感に襲われていました。

 私が空援隊の理事として取り組んできた事、また今後の最大の課題、テーマとして捉えていたのは、1にも2にもまずは疑惑に対する説明責任。一部の週刊誌、一部の遺族関係者、一部の戦友関係者であろうが、ご遺骨基金による寄付金、また税金が含まれている以上は、疑惑に対し1つ1つ誠実に事実関係を説明するべき。

 私の元にもご寄付をして下さった方々から「どうなっているのですか」と戸惑いの連絡が相次ぎました。本来ならば私たちの方から先に連絡し説明しなければならなかったのではないでしょうか。

 ネットの世界でも空援隊に対し批判的な意見が飛び交った。単なる誹謗中傷もあれば、正しい批判もありました。多かったのは空援隊が疑惑に一切答えようとしない姿勢に対する厳しい意見でした。私はこの意見に同感です。大きく疑惑を報じられながらそれに対し一切語らないのはその行為自体に意味が生じてしまう。

 「厚生省と共同で記者会見または説明会を行うべき」と提案して参りましたが、空援隊の公式見解では

「法的に有効である場合に限って、記者会見や告訴という方法論により最低限の対応や対処をする必要があるが、逆にいえば、それ以外は黙殺する以外にはない」

と断言されてありました。

 次には遺族会、戦友会、また他のNPO団体との連携。つまり遺骨収集をオールジャパーンにすることであった。その為に昨年(東京)、今年(大阪)と産経新聞にお願いし遺骨収集シンポジウムを開催して頂いた。我々、空援隊の他のNPO団体、また戦友会関係者、遺骨収集問題に精通しているジャーナリストに御集り頂き、意見交換を行いながら横の輪をどれだけ広げていくのか。遺骨収集の方法論は様々あるのでしょうが、目的はあくまでも遺骨収集。

 遺族会は遺骨収集から慰霊巡拝に力を入れていくのならば直接的というよりも間接的な協力体制でもいいのではないか。

 この活動を始めて3年。どうして日本人同士、目標を共通にしていながらもいちいち対立してしまうのか理解できなかった。日本人同士の足の引っ張り合い。

 誰が悪いとか一方的に決めつけられる事ではありませんが、各自がバラバラで活動していてどうして日本社会全体の問題としてこのアクションを起こせるのでしょうか。確かに様々な団体があり、その間には根深い問題が複雑に絡み合い、また利権含め一筋縄にはいかない問題が多々立ちはだかっていることもあるのでしょう。しかし、私は空援隊の理事としてどうしても「オールジャパーン構想」を手掛けたかった。

 昨年、遺族会会長の古賀誠先生とも会談を行い我々の活動を伝えていたのもそのためでした。時間はかかるかもしれませんが、現場で活動を継続しつつ同時に日本国内では1つ1つ、コツコツと他団体との関係を構築していく。活動の輪を広げるためにもオールジャパーン構想は説明責任と同様に私の中では真っ先に取り組まなければならないと考えていた。

 そのオールジャパーン構想ですが、空援隊の公式見解では

「(他団体)との摩擦は避けられないし、その摩擦を雑音として、結果だけを追い求める以外に正攻法はない」

と明記され、空援隊に再度確認したら「オールジャパーンはあり得ない」との返答でした。

 
  ヒマラヤでその知らせを告げられ、その三日後、私は登山ウエアーについていた空援隊のワッペンを1つ、また1つ、外しました。その行為はとても悲しいものでした。

 私は空援隊が好きでした。その気持ちは今も変わりません。私が正しくて、空援隊が間違えていると決めつけているわけでもありません。人にはそれぞれの考え方がありますから。ただ、どうしても譲れない最後の一線というものが互いにあります。社会的な活動には絶えず説明責任がついて回る。また他団体との連携も大切。これは私が今まで最も大切にしてきた哲学でもあります。

 私と空援隊は最も大切なポイントを互いに譲れなかったということなのでしょう。そして私は空援隊を去る事になりました。

 
  去る者は多くを語らない方がいいのかもしれない。しかし、最後に空援隊に対しアドバイスがあるとするのならば、空援隊はご自身たちが感じられている以上に、社会に対し大きな影響を与えているということです。素晴らしいことだと思います。ただ同時に注目されればされるだけ社会の目も厳しくなります。空援隊はさらに開かれた団体に、また開かれた組織になる努力が必要ではないでしょうか。理事の人選もさらに幅広く様々な分野で活動されている方々を含めるべきでしょう。一部の理事の意見が強すぎては組織自らが限界を作っているようなものです。

 「公式見解」なり「統一見解」も一部の幹部のみが情報を共有するのではなく、全ての会員、また関係者にも共有されるべきであり、さらに「公式見解」となれば社会に対する見解となりますから、社会に対しても空援隊の考え方、また方向性をオープンにするべきでしょう。その上で会員募集を行うべきだと私は感じてきました。

 5月7日に神奈川県で予定されていた空援隊主催の講演会ですが、私が登壇する事になっていました。空援隊から私宛に届いた公式見解(統一見解)は理事、理事長のみが内容を把握しており、会員など他の関係者には告知されないまま。私の哲学と大きく異なる空援隊の公式見解を会員の皆さんや講演会場にいらっしゃる方々に伝えなければ、私の講演内容イコール空援隊としてしか伝わらないでしょう。しかし、この両者の間には考え方に大きなギャップがあります。故に私の考え方のみを伝えるのは多くの方に誤解を与えることになります。

 私が「オールジャパーンにしたい」と話せばそれが空援隊の考え方だと人は捉えるでしょう。ですから「公式見解を出された以上はそれこそ公にしてください」とお願いしていました。その上で私の考えを講演会にて伝えたかった。

 そして疑惑に関してはこの講演会の中で説明する、その上で会場からの質問を受け付け理事長含めそれらの質問に対し答えていく。これが私の講演を引き受ける上でのお願いでしたが、それら全て「NO」ということでした。

 講演会直前まで空援隊サイドと交渉が続きましたが、結果的に両者の合意には至らず私は講演会の参加を辞退せざるを得なかったこと、大変無念であり、また会場におこしの方々に対し申し訳ない気持ちで一杯です。私は10年以上講演活動を続けてきましたが、このような経緯でのキャンセルは初めてです。大変申し訳ございませんでした。

 空援隊を去り、これからどのような形で遺骨収集事業に関わっていくのか、まったく未知数ですが、私なりに「オールジャパーン構想」に向けて精一杯の努力をしたい。そして空援隊の会員の皆様、そして関係者の皆様、今後とも空援隊の活動の発展のためにどうか空援隊をよろしくお願い致します。私は私で頑張ります。3年間と短い時間でしたが、空援隊のメンバーとして一緒に現場で汗を流し、また洞窟の中で流した涙、どの出来事も決して忘れることなどできません。また一緒に活動をさせて頂い事を心から誇りに感じています。

 遺骨収集事業には空援隊の活躍は必要不可欠です。私は空援隊を含めたオールジャパーン構想を決して諦めたわけではありません。助言を求めたり、またお声をかけることも今後でてくるでしょう。また一緒になって活動が出来る日がやってくる事を切に願っています。この3年間、遺骨収集活動に協力して下さった関係者の皆様、本当にありがとうございました。そして今後とも空援隊をよろしくお願い致します。

2010年5月8日 野口健