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「チベットに自由と正義を〜人権問題に国境はない〜」

6月19日、朝、家を出る時はいつも違った緊張感を味わっていた。その日は長野市で「メルトダウン イン チベット」の上映会と私のチベット問題に対する講演会が予定されていたからだ。


私の第一歩

2008年3月14日、チベットのラサで起きた血の抗議事件から2年。中国の人権侵害に苦しむチベット人が北京オリンピック前に世界に訴えようとラサで抗議を行った。その結果、多くのチベット人が逮捕され、獄中で拷問を受け200人以上のチベット人が犠牲となった。

あの暴動が起きた時、私は日本でその様子をテレビで眺めながら、あの温厚なチベット人がついに行動に移したと、まさに知覧から飛び立っていく特攻隊員の心境と同じなのだろうと心が苦しくなった。もし私がその場にチベット人として居たのならば、間違いなく私も手に石を持ち参加しただろう。その行動をどうして批判出来ようか。

1946年にチベットは中国共産党の軍事戦略を受け、1959年には中国の占領に抗議するチベット人が決起。チベット亡命政府によればチベット人犠牲者は現在までに120万人。

その内訳は

拷問による死亡約   17・3万人

死刑         15・6万人

戦闘による死亡    43・2万人

餓死         34・3万人

自殺          9000人

傷害致死        9・3万人

破壊された寺院は侵略前の95%にあたる6000カ所以上。そして世界に亡命しているチベット人は既に10万人を超え、いまでも毎年、命がけでヒマラヤを越えるなどして2000〜3000人がインドやネパールに亡命しているのだ。

中国はチベット問題をあくまでも「内政問題」であり、国際社会からの声を「内政干渉」だと片付けようとしている。私はチベット問題を内政だとは思っていないが、仮に100歩譲ってチベット問題を中国の内政問題だとしても「人権問題」は国際法の観点から見ても内政問題では片付けられない。

その根拠は、例えば世界人権宣言の内容を条約化したものが国際人権規約ですが、そのB規約には「身体の自由と安全、移動に自由、思想、良心の自由、差別の禁止、法の下の平等などの自由権が保障される」と明確に書かれてある。

民族自決権しかり。民族自決権とは「各民族集団が自らの意思に基づいて、その帰属や政治組織、政治的運命を決定し、他民族や他国家の干渉を認めないとする集団権利」である。

またジェノサイド条約第2条でも「集団殺害とは、国民的、人種的、民族的、または宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもって行われた行為」とある。中国がチベットで行ってきたことそのものではないだろうか。

中国が行ってきた事はもう1つのホロコーストなのだ。あのアパルトヘイトも国際社会から非難され続けた。決して「内政問題」でも「内政干渉」でもなく間違いなく国際的な大きな問題の1つであった。人権問題に国境はないのだ。中国はチベットでの人権侵害を「内政問題」「内政干渉」であると平然と表現しているが、その表現自体が実に古く、時代錯誤であり、感覚が大きくズレている。

2009年カトマンズでのチベット人の抗議デモの様子 眼隠しには、彼らには自由がないことを意味する

彼らには言論の自由もない

2008年3月の暴動をきっかけに私も私なりに声を上げた。しかし、それは自身の講演会での発言であったり、また自身の著書(自然と国家と人間と)、または取材での発言であり、直接的なアクションではなかった。何か行動に移さなければと考えていた時に「ステューデンツ フォーフリーチベット ジャパン」の活動を知った。代表はツェリン・ドルジェ。そのツェリンさんからあるチベット人映画作成者の話を聞いた。

その映画作成者の名前はドンドゥプ・ワンチェンさん(35歳)。彼はチベット人の声を世界に届けようと、北京オリンピック前の2007年11月から2008年3月かけてカメラを片手にチベット全土を何千キロも旅をしながら100人を超えるチベット人にインタビューをした。その映像は約20分に編集され彼の仲間によりヨーロッパへ持ち出された。しかし、ドンドゥプ・ワンチェンさんは2008年3月26日に中国当局に拘束された。そして国家政府分裂に関与した容疑(いわゆる国家反逆罪)で懲役6年の判決を受けたのだ。

彼は命を賭けてこの20分間のドキュメンタリー(恐怖を乗り越えて)を作り世界に訴えたのだ。私もその作品を何度も見た。そして驚いた事にそのドキュメンタリーでインタビューを受けているチベット人たちがみな実名であり、また顔も隠していないことだ。ドンドゥプ・ワンチェンさんが何度も「名前と顔を出してもいいのですか?」と確認する。もちろん、相手の安全を考慮した行為である。しかし、彼らの多くは「顔も名前も出して構わない」と。つまりあのドキュメンタリーは制作側も出演側もみんなが命を賭けてでも世界に訴えたいという叫びであったのだ。命を賭けた彼らの声に耳を傾けなくていいのだろうか。私は一人でも多くの方にあのドキュメンタリーを見て頂きたい。真剣にそう願った。


  善光寺前で

私はツェリン・ドルジさんの話を聞きながら、またドンドゥプ・ワンチェンさんのドキュメンタリーを見ながら、彼らと一緒にチベット問題を訴えていきたいと感じ、また明確に腹をくくっていた。


天井からぶら下げる、電気ショックを与える、犬に襲わせる、数満ボルトの電気棒を口や性器に挿入する、小便を飲ませる、手錠をかける、殴打、強姦、食事や水、睡眠時間を与えない


これはチベットで行われてきた拷問である。このような人間として決して許されない行為に「内政問題」などない。国際社会はもう一度、中国に対し声を上げるべきではないだろうか。


私はツェリン・ドルジさんと相談をしながら年内にもドンドゥプ・ワンチェンさん釈放へ向けた署名活動や、また、チベット問題をテーマにしたシンポジウムなどを開催したいと考えている。

  善光寺前で行われたキャンドルナイト

私の発言が中国語に翻訳され中国で出回っていると中国人に聞かされた。チベット亡命政府のサイトに私のコメントが紹介された事で外務省関係者から「野口さんはもう中国には入れないでしょう」と言われたが、私はそのこと自体が異常であると感じる。仮に日本政府に対し批判的なコメントを出した外国人を日本に入国させないとしたらそんな国は果たしてまともな国なのかどうか。ましてや北朝鮮のような極端な小国ならまだしも常任理事国であり、また拒否権を持つ大国の姿ではない。

多くの日本人はチベット問題に無関心であるが、しかし、あくまでも隣国での出来事である。そしてこのまま中国を放置しておけば日本もいずれ第二のチベットになるだろうと、つまりチベット問題は決して他人事ではないのだ。故に私は私なりのアクションを起こしていきたい。

 

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