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雨のナムチェバザールでエベレストを想う





 午後からは決まって雨。エベレストのキャラバンが始まってまだ2日目。標高3445mのナムチェバザール村への急坂も楽じゃない。
しかし、想像していたよりも体がよく働いてくれる。汗がひどく滴り落ちるけれど体を動かした時に流れる汗は実に清清しい。ナムチェバザールでの定宿の「サクラロッジ」は例年ならばこの時期には日本人トレッカーで賑わうはずなのに、今日の宿泊客は僕だけ。

 おかみさんが一人留守を守っている。高畑隊員らは今日キャンプ1へと向かったそうだ。ここが雨でも5000mを超える高所では雪だろう。降りてきたシェルパの情報では今年もアイスフォールは複雑に亀裂が走り、クレバスを避けるようにジグザグに工作されたルートが歩行距離をさらに長くしているようだ。そして25隊とも言われている登山隊が一本のルートを通れば当然危険地帯での渋滞がおこる。山頂直下ならばなおさらだ。

 最後のエベレスト清掃活動へ向かうためのキャラバンはやはり「最後」とあって例年とは気持ちが違う。97年から格闘し続けたエベレスト。そして2000年から開始したエベレストの清掃活動。自身が登頂するための登山はあくまでも自己満足であり、自分さえ登れればそれでよかった。自分の夢のために命を賭けるのはごく当たり前だ。しかし、欧米人登山家らの「日本の文化三流」発言に我慢ならず、それじゃとばかりに始めた清掃登山はある意味、私の負けん気であり思いつきであったが、それによくも何年もの間、この危険極まりない清掃活動に多くの仲間達が行動を共にしてくれたものだといまさらながら頭が下がるし、私が作った流れを止めさせないと一緒に命を賭けてくれる仲間達がいたからこそこの活動を続けてこれたのだとしみじみと感じていた。ザイルで結び合う仲間は戦友のようなもので、平地での人間関係とはまた一味違ったピリッとスパイスの効いたような信頼関係で結ばれるもの。互いに命を賭けた極限状態の中で助け合う時に初めて生まれくるもので、そこが我々冒険家にとって最も尊い領域であり、美学でもある。ゴミ拾いに命を賭ける、これはなかなか出来ることじゃない。エベレストに登頂した時よりも清掃活動を始めた今日のほうが、遥かに世界最高峰への不思議な魅力に気がつき、また取り付かれてしまったようです。

 一日も早くBC入りして先行している仲間達に追いつきたい。なんだか、二軍に落とされた野球選手の早く上に上がってプレーしたいという切実な気持ちが分かったような気がします。


2003年4月14日
ナムチェバザールにて野口健