今日も早朝から快晴、無風。早朝山頂アタックをかけた問題のニマ・ツェリンの様子を確認しようと望遠鏡で最終キャンプから頂上までのコースを確認する。確かに、最終キャンプから一本のトレース(足跡)が雪にくっきりとついているが,そのトレースも最終キャンプから一時間ほど歩いたとみられる地点からピタッとなくなっている。あれれ、と思いきや、午前8時10分、最終キャンプの20〜30メートル程上から降りてくる人影が見えた。昨夜、彼のみが最終キャンプに泊まったので、その人影が彼以外、ありえないのだが、この午前8時10分に最終キャンプに戻ってきたという事実と、途中で途切れているトレースから、彼のアタック失敗は物語っていた。ただ、無事に彼が最終キャンプまで戻ってきたという事で、ほっとした。もし、そのまま、単独でロープも持たず、アタックを決行したら、それこそ特攻隊だ。
「冒険とは生きて帰って来ること」と生前の植村直己さんがおっしゃっていたと聞くが、まったくその通りだと私も思う。私にシェルパや酸素ボンベ等の彼からの協力依頼があり、それを私が断ったという事もあり、もし万が一彼が遭難したら、非常に後味が悪いところであった。登山にしろ、他の冒険にしろ最後は自身の行動に関しては自己責任を、背負わなければ成らず、もし、彼が遭難すれば、それは彼のみの責任であり、他の隊はまったく無関係ということになる。非常に冷たくまた、正しく表現すれば、彼が勝手に遭難したで済んでしまうのであろうが、それにしても、今回のチョモランマ清掃活動のパートナーを失わずに良かった。
しかし、予想を反して、 ABCからはニマ・ツェリンが登頂した情報が我が野口隊の無線機に流れた。ABCにいるサーダのダワ・タシに「午前8時10分に最終キャンプのすぐ側でニマの姿を目撃したぞ!」と連絡したら、シェルパ達もまったくニマの登頂を信用していないが、ニマが登頂したと伝えてきたと言う。しかも、8時に登頂したと言ってきたらしいが、じゃあ私が8時10分に見たあの人影は一体誰なのか。
私だけじゃない、グルジア隊の隊長のギーア・トラトラーゼも8時10分の人影をしっかりと目撃していたのだ。山頂から最終キャンプに戻るまで通常4時間以上かかるとシェルパがいう。昨夜、ニマのみが最終キャンプに泊まっている事実がある以上、彼以外ありえない。そして、ピタリと途中で止まっている、くっきりと見えるトレースをどう説明するのか。ラッセルブライス氏もニマのアタックを気にしており我々同様に望遠鏡で彼の姿を探し、アタック失敗と判断していた。
これらのアタック失敗とみられる状況説明をABCに伝えニマの登頂は信じがたいと付け加えた。BCにいるチベット登山協会のメンバーもニマの失敗を否定できず、「失敗した」と発言した。
しかし、相変わらずABCからはニマが「登ったといっている」と連絡が入り、ニマの精神状態がますます理解できなかった。無事に帰還したからそれでいいじゃないか、と思いもしたが、これは、ニマ自身の信用問題につながる。明日にはロシア隊が山頂アタックを行うが、当然途中まではニマの作ったトレースを辿るだろう。そこで途中でブツリと切れているトレースを発見しようものなら、ニマは後に批判の嵐にさらされるだろう。しかも、チベット登山協会のチョモランマ代表であり、連絡官という身分の彼には致命的である。登山家としての信用を失えば、誰が彼の連絡官としての言葉を聞こうか。
真相は分らない。現時点では彼が100パーセント登っていないとは断言できないが、先の展開はどうやら暗そうだ。
【日本隊情報】
法政隊の第一次アタック隊の2名が本日ノースコルに上がり、予定では17日に登頂予定。東北隊のアタック隊も3名がノースコル入りした。北海道隊のアタック隊メンバーは明日115日に ABCから7800メートルのキャンプ2にダイレクト入りし、法政隊、東北隊に合流するとの事。
日本隊3隊の登頂予定日は5月17日。丸山隊は、丸山さんが休養の為、ラサまで下りているとの情報あり。いつ BCに戻るのか不明。
野口隊はシェルパ、4人が本日最終キャンプへとゴミ回収へと向かった。しかし、前日同様に雪にまみれゴミを発見できず、シェルパ達はさらに標高を上げ、酸素ボンベを10本程回収したとの事。野口・村口カメラマンは明日、ダイレクトでABC入りする。
【外国隊情報】
外国隊としては今日14日に最終キャンプ入りしたロシア隊2名が明日山頂アタックをかける。また、本日、英国隊のアタック隊が4〜6名ほどがノースコル入りした。ラッセル隊はアタック予定23〜25日頃。あとは、不明。
【野口隊の今後の予定】