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エコツーリズムとレンジャー制度

  いよいよ都レンジャーの募集が始まりました。 意欲のある方、是非とも応募を 期待しています。都レンジャー募集はこちらから。以下、私の都レンジャーに期待する事柄をまとめてみました。是非ともご一読下さい。

 近年、日本でも自然保護への関心の高まりから、従来型のマスツーリズムではなく、自然保護と観光振興の両立を図るエコツーリズムに注目が集まっている。
 中でも先進的な取り組みを行っているのが、小笠原諸島である。昨年の四月から一部の指定地域でエコツーリズムがスタートした。指定地域の第一号は、父島の南西約一キロに浮かぶ南島と固有種が数多く自生する母島の石門地区の二箇所。立ち入りには、東京都が認定するガイドの同伴を義務づけられ、人数や期間などの制限がある。たとえば南島を例にとると、一日あたりの最大利用者は百人、ガイド一人が担当する利用者の人数上限は十五人、最大利用時間は二時間といった具合である。このような行政主導で行われるエコツーリズムは日本初のことであった。

 この取り組みは長年の観光利用で一部地域の自然破壊が進んでいたことを危惧し、東京都が検討委員会を設け、そこで取り決めがなされたという経緯がある。私も委員の一人であった。その時、実は私自身が小笠原を訪れたことがなかった。私は世界各国のエコツーリズムと国立公園の管理体制を例にあげ、提言をしてきたが、見ず知らずの土地のことを遠く離れた新宿の都庁舎で議論することにうしろめたさを感じていた。故に私はその後、時間を見つけては、小笠原を訪れ、地元の方々に意見を伺った。実際に現場はどうなっているのか、ということを肌で感じたかったためだ。

 総じて地元の方は意識が高く、エコツーリズムも順調に運営されているが、なにぶん始めてのことで随分と戸惑いや問題もある。たとえばこのルールは条例や法律ではないので法的拘束力を持たない。故に人数制限をオーバーしていても、それを止めることの出来ず、更に罰則もないわけで、ゴールデンウィークや正月などのかきいれどきにはルールを破る業者も出てくる。

 ただ最大の問題は都と村のコミュニケーション不足という点である。小笠原村には東京都の支庁があり、そこにいる職員が村との連携役を果たしているわけだが、役所の通例でおおよそ二年間すると異動になってしまう。そのため非常に優れた方が担当になって、情報収集し、地元の方との連携を図り始めても、うまくことが進んでくる時期にはまた異動となってしまうわけだ。

 勿論地元にも問題はある。小笠原は一九六八年に返還されて以来、国と東京都の支援で道路を始めとする様々なインフラ整備を行ってきた。人口が二〇〇〇人を少し超える規模の小さな島であるため、既に整備は整っている。しかし長年、島の産業は公共事業の占める割合が非常に高い。公共事業からエコツーリズムへというパラダイムシフトが求められていることは地元の方々もみな口にしている。だが非常に個性が強い方が多いため、全体的な方向性はあるにしても各論となると物事が決まらない。派閥がいくつもあり、自分達の中でしかコミュニケーションをとらない方も多く、誤解が生じてもいる。東京都のスピードに小笠原村が追いついていけない、というのが小笠原に関する包括的な私の印象だが、悠長に議論していても自然破壊は進むばかりだ。

 私は東京都と小笠原村の間、そして村の中での調整役が必要だと思っている。実は今夏から小笠原では東京都独自のレンジャー制度が始まる。自治体が本格的なレンジャー制度を発足させるのは日本初のことだ。環境省は林野庁と共に作った委員会で小笠原を世界遺産の候補地にあげておきながら、担当のレンジャーはたったの一人で更にその勤務地は箱根といった状態であり、職員すらも常駐させていない。本来、国立公園の監督官庁は環境省であるにもかかわらずだ。私は都のレンジャーには国立公園の厳格な管理と更にエコツーリズムを推進する上での調整役、ルールの監視役などを期待したい。

 小笠原諸島へは東京の竹芝桟橋から船で25時間半かかる。来年度からは高速艇が就航し、17時間に短縮されるが、時間がかかることにかわりはない。世界的なエコツーリズムの先進地であるガラパゴス諸島は時間的にも金銭的にもハイコストだが、世界中から人が集まる。自然を徹底的に保護することにより生計を立てるというシステムが完璧に機能している。だがガラパゴスも最初からそのようなシステムがあったわけではない。熱心な地元の方への説明や非常に優れた調整ができる人材がいたからこそ、捕鯨船の基地という「乱獲の島」から「究極のエコの島」としてコペルニクス的転回に成功したのだ。小笠原は「東洋のガラパゴス」と呼ばれるように世界的に稀有な自然を有している。エコツーリズムの可能性の宝庫なのだ。
 小笠原のエコツーリズムが更に成功すれば、その影響は全国に広がるだろう。私は今後も小笠原を訪れ、エコツーリズムの推進、レンジャー制度の成功に全力を尽くしたい。