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 「凍」・沢木耕太郎著を読んで

 私が世界7大陸最高峰の世界最年少記録を目指したのも、エベレストや富士山の清掃登山に専念したのも常に社会的な影響をどこかで求めていたからだ。最年少にこだわったのは事実上年功序列がある大学山岳部の世界で現役の学生でも世界の舞台で活躍できることを自分なりに証明したかった。そして清掃登山はエベレストや富士山をきれいにする為だけに活動したわけじゃない。エベレストに散乱する日本語のごみから日本社会が抱えている環境問題に対してメッセを送りたかったのだ。

  エベレストの清掃活動は、実際に3名もの仲間がその命を失った。それでも活動を続けるのか苦渋の決断であったが、犠牲の上にも社会的貢献に繋がれば止む得ないと感じていた。時にリスクを背負ってもやらなければならないことがある。それが私の使命感であり、命を賭けるだけの価値である。

  しかし、肩書きは同じ登山家でも私とはまったく違う世界を目指し命を賭けている登山家がいた。沢木耕太郎氏が書いた「凍」の主人公の山野井泰史氏と婦人の妙子さんだ。山野井氏は世界的な登山家だが、彼はエベレストなどといったメジャーな山よりも一般的に知られていない、それでいてエベレスト以上に過酷な山、またシェルパなどの助けを必要としないアルパインスタイルという形でヒマラヤなど世界の山々に挑んでいた。



  冒険を続けているとどうしても他人からの評価というものに気がとられがちであるが、山野井夫婦にはそれがない。人にどのように思われるのか、言葉を変えれば社会的な影響なのかもしれないが、そんなことよりも純粋に自分だけの世界を求めあえて厳しい時期にあえて過酷なスタイルで誰に訴えることもなく冒険に没頭する。そして厳しさを求めすぎるがゆえに山野井夫妻は凍傷によりその手足の指の大半を失った。

 ヒマラヤの高峰ギャチュンカン遠征での遭難、そして奇跡の生還での出来事が詳細に沢木耕太郎氏によって書かれているのだが、私の生き方と比較しながら、まったく違う価値観を持つ山野井夫妻のあくまでも己の夢にのみ命を賭けるその姿、本能をむきだしにした生き方が実はもっとも理想的であり贅沢なのかもしれないと、感じた。山野井夫妻の生き様に私は感じることがあまりにも大きかった。