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体と仲良く会話


 朝、目が覚めて頭を振ってみたが痛みが少ない!というより寝られていた。久しぶりに気持ちのいい朝を迎える。しかし、今度は高畑隊員が顔を腫らせながらテントからでてきた。
「風邪っぽいです〜」
と、悲しげな表情。裏山に登ろうと体はワクワクしているのに、なかなか雨が止まない。午前中はテントの中で本を読んで過ごした。昼食は焼きそば!

 ここのところ食欲というものを忘れていただけに、この日本の香りに感激。珍しくおかわりした。そして午後雨が止み裏山に登った。少しずつペースを上げ、息が切れたらゆっくり登る。息が落ち着けばまたペースを上げるのを繰り返しながら200mほど登った。さすがに頭がふらついたが昨日のだるさがない。平地になっている所を恐そる恐そるゆっくりと走ってみた。
「走れる!」
3分走って休む、そしてまた走ってみる。息が切れるが気持ちがいい。ここのところ、しばらく機能が停止していた細胞が生き返ったように体が生き生きしているのが分かる。一時間ほど、走ったり、歩いたり、柔軟体操したりした。明日はいよいよ、ABC(5600m)だ。まだまだ、いつもに比べたら程遠い体調だが、それでもこの4日間のBC滞在で最低限の高所順化ができたようだ。今日も自分の体と会話しながら体調がいいと
「よし!その調子だ。頑張れ!」
と声をかけてやっている。人間の体は本当に面白い。自分の体と会話してやると、ちゃんとそれに応えてくれるんだよな〜。ダメな時はどんなに声をかけても
「兄貴、ダメっす」
って素直に返事が返ってくる。明日からも、自分とのコミュニケーションを大切にしていきながら一歩また一歩、確実に登っていきたい。

 チベットにきて本当に良かった。この雄大な大地に身をおいているだけで、人生観が変わりそうだ。このノンビリとした空気の流れの中で物事を考えていると日本での自分の心の小ささがよ〜く分かる。なんて俺は心の狭い男なんだろうか、と気がつかされる。忙しいという字は「心を亡くす」と書くでしょう、本当にそうなんだな〜。

 99年エベレストに登ってから生活が一変し、ひたすら走ってきた。時には自分でもどこ向いて走っているのか分からなくなった。それでも、ただひたすら走るしかなかった。走ることによってしか「答え」が見つからないような気がしていた。しかし、同時に大切なものを失いかけていた。いつしか本気で人と向き合えなくなったような気がする。どこかで、「こなす」ことを覚えたのかもしれない。疲れたくないという防衛本能なのかもしれないが、これは僕にとって致命傷だ。いつまでも本気で、前へ前へと進まなければ自分の存在は意味がない。
「心技体」

「心」
が真っ先にくるのもうなずける。このチベットで心を養いたい。そして、また、心新たに走り続けたい。

2002年9月10日
シシャパンマベースキャンプにて 野口健