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また、来るよって シシャパンマ!


 いよいよ、明日、山を下りる。撤退を決断してからというものの、朝目が覚めてテントの入り口を開けると目の前にシシャパンマが大きく構えている。
「敗戦の将、多くは語らず・・・」
というが、やはり、その頂きを見せ付けられるとついつい愚痴がでてしまう。
「本当に自分はもっと頑張れなかったのか」
と、その度に高畑隊員が
「ケンさん、負けたわけじゃないんですから・・・。正しい判断でしたよ・・・」
と励ましてくれた。なかなか、撤退の決断ができない僕に
「もう、下りましょうよ」と、とても言いづららそうに言ってくれるのだが、
「そんな事は自分で決める事だ!」
と思わず厳しく言い放っていた。テントの中でジッとどう判断するか迷いに迷った。すでに自分が登頂できるイメージなどわかなくなっていた。

 せめてもう一度だけでもキャンプ1に行きたいと思っているのだが、しかし、相変わらず食欲はなく、キュウリを薄くスライスしてもらって、なんとか胃袋に収めていたが、明らかにスタミナがない自分をトイレに行く度に感じていた。寝袋に潜り込むだけで息が切れ、夜になれば順化できていたはずのABCでも頭痛と吐き気に襲われた。そんな僕をやはり高畑隊員は心配でならなかったようで、
「よし、明日から上部に向かう!」
と僕が決断したら
「どうやって止めたらいいんだろうか・・・」
と本気で悩んでいるような顔をしていた。ABCに下りて3日目の朝、
「高畑、もう終わりだ。下りるよ。いろいろありがとう」
と言った時の彼の安堵の表情は忘れられない。

 シェルパ達も同様で皆、僕の判断が下るのをじっと息を殺しながら待っていたようだ。断念の判断に皆の表情が明るくなった。自分のわがままで皆に迷惑をかけた。でも、わがままを許してくれた素敵な仲間達とシシャパンマに挑戦できたこと、本当に自分は幸せ者だと思う。自身にガッカリしたこのシシャパンマ挑戦であったが、しかし、仲間たちとの絆はよりいっそう深まった。

 明日から、この山を下りる。やはり、どこかで寂しさを感じているけれど、また、同じメンバーでこのシシャパンマにやってきたい。そう
「また、来るよって!」
とシシャパンマに挨拶してニコニコ笑いながら日本に帰りたい。

2002年9月22日
シシャパンマABCにて 野口健