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「高所トレーニングを終えて」


 エベレスト街道での7日間の高所トレーニングを終えてカトマンズに戻ってきた。予定では5100地点まで登るつもりであったけれど、日本から引きずっていた体調不良を治すことに専念し、ゆっくりと登り、睡眠時間を増やした。日本で不眠症に苦しんでいたのが、まるで嘘のように10時間以上もほとんど起きることなくぐっすりと眠れた。

 最高到達地点は4200mだったが、たっぷりと睡眠をとったのか日に日に元気になるのが嬉しかった。同行者の平賀カメラマンが「巨人時代の松井は、なんだかまるで小さなユニフォームを着ていたかのように窮屈にまた小さく見えていたけれど、ヤンキースに行ってからは、なぜか大きく見える。生き生きしていますよね。健さんもそれと同じ。日本にいるときと全然違いますよ。」と言っていたが、それは自分自身が一番よく感じている。ヒマラヤの風土が体にピタッと合うのか、ものすごく自然体になれる。日本ではなかなか自分の居場所は見つからないが、ここには安らげる場がある。ホッとする。私にとってのベースキャンプなのかもしれない。

 高所トレーニングとしては最低限のことは出来た。もちろん、色々と足りていない部分は正直あるけれど、それ以上に肉体的、また精神的に回復したのがとても満足。後はシシャパンマで毎日を、精一杯、必死に過ごすことだ。たまには本気だして山に登りますよ。シシャパンマ再挑戦はどうなるのか、まったく予想もつかないが、ただ自分自身が一番楽しみにしていることは間違いない。肉体的に苦しむ事もよ〜く分かっています。しかし、人間を相手にするのとは違ってこのヒマラヤのピュアな苦しみを楽しみたい。

 我々がカトマンズに戻ってから嫌なニュースを耳にした。ヒマラヤを目指してネパールから陸路でチベットを目指していたロシア隊がマオイスト(毛沢東主義を名乗る共産ゲリラ)に襲撃され手榴弾を車の中に投げ込まれロシア隊員の足が片方吹き飛ばされてしまったのだ。幸いにも命は助かったが重症とのこと。陸路での単独行動は危険だと何度も周囲から注意されたにも関わらず、出費をケチったのかヘリをチャータすればよかったものの、タクシーでチベット国境に向かってしまった。とても気の毒であるが、しかし自らが招いた結果だ。

 今まで外国人を襲撃してこなかったマオイストがたまたまなのか、意図的だったのか分からないが、初めて外国人相手にテロ行為を行ったのだ。ヒマラヤに挑む前に人間の手によってその挑戦は跳ね返された。自然よりも人間のほうがよっぽど怖い。もし、どちらかと選択を迫られれば、私は銃弾よりも雪崩のほうを歓迎する。自然ならまだしも、人間に命はとられたくないが、しかし無意味に命を狙ってくるのはおそらく人間のほうなんだろうなぁ。

 我々は大型ヘリコプターをチャータしてチベット国境まで空路で向かうこととなった。それなりに出費は覚悟しなければならないが、お金で安全が少しでも保障できるのならば迷う余地はない。僕らはヒマラヤに命を賭けるためにやってきたわけで、マオイストといったテロリストらと関わっている場合じゃない。それにしても、ネパールの行く末がとても心配だ。 

 カトマンズに戻ってきてから、毎日、韓国レストランで焼肉を食べまくっている。日本にいるときには焼肉屋に足を運ぶことなどめったになく、蕎麦か魚が主食(特に寿司)なのに、ヒマラヤ挑戦を目前にして体が戦闘体制に入ったのか、昼、夜と焼肉屋で肉をたらふく食べまくっている。食べてももっともっと肉が食べたくなるのが不思議だが、過酷な世界で生き抜くために自然と身についた知恵なのかもしれない。植村直己氏も北極やマッキンリーではトナカイやアザラシの生肉を主食としていたそうだ。奥さんの公子さんは「植村さんは日本にいるときにはほとんど肉を食べなかったのよ。お魚ばっかりでした」と言っていたことを思い出す。体は正直なものです。
いよいよ明日からチベット。気力は充実している。思いっきり暴れてきたいと思う。
 あの時のように・・・。

4月17日 カトマンズにて 野口健