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「東南アジア最高峰・キナバル山登頂記」


  キナバル山は世界遺産地域内であり、登頂者は年間約2万人と多く登山道保護もあり木道や木製による階段が多く設置してあります。そして一泊二日でジャングルから山頂まで一気に往復できる行程なので、つまりそれだけ急な坂が続く訳です。そして多くの箇所が
段差のある階段となれば足にかかる負担はなかなかのもの。キナバル峰のガイドさんの足の筋肉の付き方が半端じゃなかったのも納得(若乃花なみ)。

 何しろ、登山口から山頂まで距離にして約9キロ、標高差は2200メートル。これだけの標高差を一気に登る登山は日本ではそう経験しないでしょう。それだけの標高差があるが故に、熱帯植物から高山植物、最後は山頂まで花崗岩が広がる岩場まで、実に様々な姿が混在しているのだ。

 ボルネオ島は植生が豊かだと聞いていましたが、本当にその通りで見た事もない草花が多く、ガイドさんから名前を聞きましたが、ごめんなさい。ほとんど忘れました。日本でもそうですが、植物の名前はなかなか覚えられない。なにしろカタカナばかりなのが厄介。
競馬の馬もそうですが、カタカナ名は漢字のように文字そのものに意味を込めないので覚えにくい。ただ、名前は分からなくても美しいものは美しいし、綺麗なものは綺麗だと、それじゃダメ?

 キナバル公園はこれまでにも100種類以上の哺乳類と300種類以上の鳥類が観察され、植物は5000種以上とのこと。途中、キナバルシャクナゲなのかボルネオシャクナゲなのか頭の中が混乱してどっちか分からなくなりましたが、真っ赤なシャクナゲでヒマラヤに咲くシャクナゲとはまた違ったシャクナゲと出会った。そしてこれは面白かったが、食虫植物のウツボカズラ。ウツボカズラ属のヴィーローサとラジャはこのキナバル山周辺にしか植生していないとのこと。試しに指先を少しだけ入れてみたが噛まれる事はなかった。一つ残念だったのが約1000種類のランが生息しているとのことですが、時期的な影響なのか見つける事が出来なかった。

 それにしてもセミらしき生きものが「ミーン・ミーン」とジャングルの中は大騒ぎ。そして様々な野鳥の鳴き声も。ボルネオ島サバ州では536種類の鳥類が記録されているが、そのうち306種類がキナバル公園内とのこと。そのうち23種類が固有種、53種類が山岳性の種類。

 まあ〜とにかくジャングルの中は虫なり鳥なりのオーケストラの世界。同じピーチクパーチクでも日頃のかみさんの愚痴とは大違いで、こちらはなんとも癒されるピーチクパーチクではないか。

 日本を発つ前に知り合いから「ボルネオには野鳥の鳴き声のCDが売っているので買ってきて」と頼まれていたので現地のガイドに尋ねたら一言、「そんなのないよ。日本にあるでしょ。もしボルネオで売っていたら私がほしい」と言われてしまった。残念ながらなさそうです。

 キナバル山で特に印象的なのが山頂付近を覆っている花崗岩。約1500年前に溶岩が固まって今現在のキナバル山が形成されたとのことです。山頂アタック中、午前6時過ぎに丁度つるりとした花崗岩の上で日の出を迎えましたが、この花崗岩が朝日の光でピンクに染まりなんとも美しかった。シーンと音のない世界。澄んでいる空気。その静けさの中で太陽の陽が照らし出す自然の芸術作品にしばし見惚れていた。

 ただ、そんな時にガイドから「昔はここも氷河でした。山頂まで氷河があったのです。ただ、溶けてなくなってしまった」と聞かされた時には、「えっ」と驚くと共に年々、気候変動の影響により氷河が融解しているヒマラヤを思い出し、キナバル山での出来事が人ごとではなかった。このままのスピードでヒマラヤの氷河が溶け続ければ2035年にはヒマラヤの氷河のほぼ全てが地球上からなくなるとも言われている。アフリカ大陸最高峰キリマンジャロも同じような状況らしい。

 ヒマラヤに通い続けてきましたが、気候変動の影響などによる気候異変を何度も目にしてきた。雪崩の多発、氷河の崩壊、氷河湖の決壊、乾季であるにも関わらず豪雨。雪が降らないカトマンズで60数年ぶりに雪が降れば、今度は5000Mを超えた雪の世界で、雨が降るようになった。雪の世界に雨が降り、雨の世界に雪が降る。昨年にはシェルパの一人がエベレストでハエを目撃。

 今にも決壊しそうな氷河湖の麓に住んでいるシェルパの一人が「ケン、あの氷河湖が決壊したら我々は死ぬしかない。なんとかしてほしい」と私に訴えていましたが、彼らの切実な言葉が脳裏を離れない。

 今回、あえてヒマラヤから離れキナバル山に登りにきたのに気がつけばヒマラヤの事が気になっている。もうすでにヒマラヤは自分の故郷になっているのだと改めて気付かされた。

 それにしてもキナバル山の登山道はキッチリと整備され、至る所にゴミ箱が置かれている。一昔前の日本でも目にした光景ですが、ガイドは下山時にごみ袋一袋分の持ち帰りが決められているとか。かつて、尾瀬などで問題となったのが設置してあるゴミ箱。つまりゴミ箱があればそこで捨ててもいいということになるので、みなゴミ箱に捨てるわけですが、すぐにゴミが満杯となり表に溢れ、ゴミ箱周辺なら捨てても良いといったような雰囲気となりゴミ箱周辺はゴミが散乱してしまう有様だったようです。その反省からゴミ箱を撤去してみたところ、それがゴミの持ち帰り運動に繋がっていったとのこと。それぞれのお国事情もありますので、なにが良いのか悪いのか様々ですが、いずれにせよキナバル山ではゴミ箱がありながらもどこにもゴミが落ちていなかったのが印象的だった。

キナバル山の環境保護対策としては、

ガイド同伴の義務、宿泊施設数の数が限られているので、入山者の上限は一日192人まで(ベッドの数が192個 ガイド情報によると)。

入山料金はキナバル公園の入園料は15リンギット(日本円で約500円)
キナバル登山の入山許可料は100リンギット(日本円で約3500円)
これに傷害保険料7リンギ(245円)加入も義務となる。

そういえば台湾の最高峰である玉山も山小屋のベッド数によって入山者の数が制限されていたのを思い出す。さて、富士山はどのように管理されていくべきなのだろうか。

 
  2009年1月7日、午前7時、無事キナバル山ローズピーク(4095M)に登頂。山頂からの眺めですが、海が眼下の。4000M級でありながら眼下に海。海にジャングルに岩場。自分たちが立っている岩場の山頂から下はジャングルや海の世界が展開している。つまり生き物の宝庫を山頂から見渡せる。生を感じるこの瞬間はなんとも形容しがたい安堵感に包まれるものです。皮膚感覚で地球を感じていたのかもしれない。

 この年末年始、日本で過ごす予定でしたが、長期間ではないものの日本を飛び出して本当に良かった。なにしろしばらく日本にいると、ついついあれもこれも考えすぎてしまう。一人で勝手に危機感を抱いたり、焦ってみたり、時になんだか一人相撲のようで空しくもあり、しかし、同時に多くのメッセージに救われることもあり、幸せなことですが、こうして時にまったく知らない新しい世界に身をおいてみて初めて解放されたり、また新たな視点が見つかったりすることもあるんですね。

 キナバル山登山は純粋に楽しかった。一泊二日(余裕をみて二泊三日をお勧めします)であれだけの世界を満喫させて頂いたキナバル山。私、自信をもってみなさんにキナバル登山をお勧め致します。私、ボルネオ島にハマりました。次は8月辺りにボルネオ島でマニアックな登山?いや探検を予定しています。

 みなさん、先ほどこのブログにアップした平賀淳カメラマンによる写真集ページはいかがでしたでしょうか?私のダラダラとした文章を読むよりも平賀カメラマンの撮影した写真の方がよっぽどボルネオの魅力が伝わると思います。キナバル登山後、翌日からオランウータンを森に返すための保護施設やそれ以外の野生動物を観察してきましたが、明日以降、平賀カメラマン写真集ページ第二弾をアップしますのでお楽しみ。

 2010年1月10日 ボルネオ島 コタ・キナバル市にて 野口健