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WALKING SAFARI
ンゴロンゴロ自然保護区でのエコツアー


日本の国立公園のあり方について考えていた矢先、NHKからタンザニアの国立公園のエコツアー取材に行かないかという企画を頂いた。なんというグッドタイミング!ありがたくその話をお受けして、二週間に及ぶタンザニアの旅へと出かけることになった。

アカシアの木 レンジャーのパパさんとガイドのレミさん
ヌーの大群 歩いたサファリを眼下に
遠巻きにヌーを観察 アカシアを見る健さんと大森君
ヌーの死骸と出会った フラミンゴと健さん
自然保護区入り口 仲良しのシマウマ


 国立公園と自然保護区

 2月27日〜3月2日、タンザニアの北西部にあるンゴロンゴロ自然保護区へと出かけた。同行してくれたのは、現地ガイドのレミさんとムエカ大学で野生動物との関わり合いを勉強していた大森君、そしてレンジャーのパパさんだ。タンザニアにはキリマンジャロなど12の国立公園とこのンゴロンゴロ自然保護区がある。日本の国立公園と最も違うところは、タンザニアの国立公園は全て国有地であり、国の管理下にあるということだ。
(もっと言ってしまうとこの国の土地は全て国有地なのだ。)そして、この国の国立公園管理意識はとても高い。驚いたことに(恥ずかしながら驚いてしまったのだが・・)、野生動植物をただ保護するというのではなくローカルの人々とどう共存していくか、ということを考え「調査、研究、実践」という形で取り組んでいるのだ。
野生動植物を守るために作られた国立公園にもいくつかの問題がある。一つは、国立公園内には人は住めないので、もともとそこに住んでいた地元民族は移動しなければならず、国立公園の周囲に集落をつくっていること。その一方で、動物は国立公園内にしか住めないので近親相姦が起こり、奇形が生まれたり血が濃くなって弱い種になってしまう。
そして国立公園ではなく自然保護区のンゴロンゴロでは、野生動物と人間との共存があった。


 ンゴロンゴロ・クレーター

 標高約2000mの高地にあるこのクレーターは、巨大な火山の噴火口だ。この中に一つの野生動物の世界があった。言ってみれば、富士山のおはちの中にサファリパークがあるようなものか。
このクレーターのすごいところは、緑に守られて別世界が出来上がっていることだ。2000mの高地にジャングルのような森がある。森のおかげで乾季にも豊かな水が得られる。クレーター内にはいく筋もの川があり、そこには想像を越える沢山の動物達がいた。
ここにはライオンのような猛獣もいるので、車でしか入れない。車から降りることは許されない。彼らの土地に我々人間が必要以上の足跡を残してはいけないのだ。


 動物たちの楽園

 レミさん、大森君と共にランクルに乗り込みクレーター内へと入って行くと、まず出迎えてくれたのはシマウマ達だ。右も左も前も後ろもシマウマだらけ。子供のシマウマの模様は茶色だなんて初めて知った。成長するにつれて黒いシマになるのだそうだ。そして指紋のように、一頭一頭違う模様をしていた。シマウマの群れの間に、泥にまみれたバッファローがのんびりしていた。バッファローが自分の体を泥で覆うのは、虫から守るためと直射日光を浴びてオーバーヒートするのを防ぐためだった。草むらを見ると、小さなガゼル達がぴょんぴょん跳ねている。道際にはジャッカルがキョロキョロしていた。前方に大きな大きなダチョウがお尻を振りふり優雅に歩いている。健さんはダチョウのお尻を見ながら
「ダチョウってセクシーなんだなぁ」
と妙に感心していた。ピンクの長い脚は、発情期には濃いピンクになるのだとレミさんが教えてくれた。大きな池の脇にライオンのカップルが寝転がっていた。戦いに疲れたのか、暑さに参っているのか、お腹をこちらに向けて警戒心もない。
このクレーターの中にはあらゆる動物が平和に共存していた。ゾウ、ヌー、カバ、カモ、サギ、サイ、フラミンゴ、そしてイボイノシシ。決して美しくないこのイボイノシシの家族はとてもコミカルな動物で、今回のサファリツアーの中で、健さんの一番のお気に入りとなった。


 共存と共生

 クレーター内の湖に湖面がピンクに見える程沢山のフラミンゴがいる。よく見ると2種類のフラミンゴがいるのだが、彼らは決してけんかをしない。一方は水草を食べ、もう片方は水の中の虫を餌としているという具合にうまく食分けができているのだそうだ。
ンゴロンゴロ自然保護区ではヌーとシマウマとガゼルが一緒にのんびり群れているのを沢山見たが、彼らも仲良く住んでいる理由は食分けにあった。ヌーが背の高い草を食べ、シマウマが中くらいの草を食べ、ガゼルは一番低い下草を食べるという。
更にキリンとガゼルも仲良しだった。キリンは背の高いアカシアの木の葉を好んで食べ、ガゼルは足元の草を食む。そして背の低いガゼルは危険察知をキリンの視界に頼っているらしかった。

 水分の少ないサバンナの地に見られる木のほとんどはアカシアだ。この木はよく見ると鳥の巣が沢山ある。アカシアのトゲによって鳥の巣は蛇などから守られているのだ。そして鳥の糞がこのアカシアに栄養分をもたらしているのだろう。

 アカシアと共に

 ンゴロンゴロの土地でアカシアの木は大きな意味を持っていた。アカシアにも沢山の種類があって、実は私達の目にした木のほとんどがアカシアだったのではないだろうか。子供の背丈ほどのアカシアから、100年もたってようやく成木となる10mくらいの森のアカシアまである。アカシアは鳥や蟻が巣を作るだけでなく、マサイ族にとっても欠かせない木だ。マサイの男性が必ず持っている杖はこのアカシアから作られているのだそうだ。とても強くかたいアカシアは、家畜の柵や家のドア、民芸品の彫刻にも使われる。そして木の皮や根は薬にもなる。
 ただし、アカシアも無限ではない。今ではアカシアの減少が問題になっているようで、マサイも決められた分のアカシアしか自由に使うことは許されていない。強くかたいアカシアは、再生するのに100年かかるのだから。
アカシアはその枝を大きく広げ、テーブルツリーとかアンブレラツリーと呼ばれてその下に大きな木陰を作る。マサイの人々はアカシアの木の下に集まり、多くの時を過ごす


 25kmも歩いて考えたサファリの長い一日

 ガイドのレミさんと大森君にだまされて、広大なサバンナを延々と歩く羽目になった。15kmだって言っていたのに実は25kmも歩いていて、キャンプ地に着く頃は太陽もすっかり地平線に沈んでしまっていた。それでもサファリを歩くという体験は、沢山の貴重なものを私達に教えてくれた気がする。車に乗っていたほうがより動物に近づけることもあるけれど、地に足をつけて歩いてみるとそこにいる動物に気持ちが近くなるのを感じた。25km歩いてみて、本当の意味でンゴロンゴロが少し理解できたのかもしれない。目で見たものを、レミさんや大森君がひとつひとつ説明してくれたから、いろいろな発見があった。ゾウの糞は40%しか消化されていないので草がそのまま残っていたり、ハイエナの糞が白いのは獲物を骨までしっかり食べてしまうからだとか、インパラの群れはオス一頭にメスが群がっているからハーレムなんだ!と健さんがうらやましがったり、途中で見つけたヌーの死骸はほとんど食べられていないからチーターにやられたのだとか、ハゲタカが舞っていれば何か動物がライオンにやられたに違いないから気を付けろとか、そんな時はレンジャーのパパさんから離れてはいけなかった。そして疲れたら休むのは必ずアカシアの木の下だった。

 夜は焚き火を囲みながら話をした。夜行性動物の話から始まって、国立公園のあり方、野生動植物との関わり方についてまで。タンザニアの自然を守るための手段の一つとして、サファリツアーは行われている。動物や植物を知ってもらうため。そして観光客からの収入は国立公園内の管理費や、国立公園を出なければならなかったマサイの人たち等への補助、自然保護と共存の重要性を教えるための教育、減少してしまった動植物の保護と再生。

 これからのエコツアー

 今、ンゴロンゴロのガイドやレンジャー達の最大の関心事の一つは、クレーター内に入れる車の数を規制していかなければならないということだ。観光客からの収入が増えるからといって、むやみに多くの人を入れてしまったら野生動物たちの生態系はいつか狂ってしまうだろう。そこで彼らが行っているのがクレーター内だけでなく、今回の私達のように実際のサバンナを歩いてサファリに触れ、感じてもらうこと。一つの場所に人が集中するのを避けると共に、実際に時間をかけて歩いて自分の手や足で触れ、感じ、考えてもらう。そこにある問題とこれから私達のすべきことは何なのか。
健さんは
「日本の子供達をつれてまたここに来たいなー」
としきりに言っていた。学校や教科書でどんなに教えても、実際に来て、見て、触れて考えてみたことには到底かなわないのだ。子供達と一緒に歩いて、感じて、
「何故自然保護って大切なの?」
「何故木を切ってはいけないの?」
ということについてゆっくり話をしたいと何度も言っていた。一本の木に触れてみることが、最初の一歩なのだ。
「地球と出会う体感エコツアー〜タンザニア編〜」 (NHK BS-h)

2003年3月2日
谷口ケイ