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"THE BANANA ROAD"
ムトワンブ・カルチャーツアー


3月3日、アルーシャとンゴロンゴロ自然保護区のちょうど中間に位置する小さな町、ムトワンブで地元の青年達が行っている「カルチャーツアー」というものに参加した。タンザニアの広大なサバンナの中でオアシスのように緑あふれるこの町は、歩いてみるとバナナ、バナナ、バナナ・・・バナナに恵まれた素晴らしい土地なのであった。そして出会った顔は皆、笑顔だった。

歩いても歩いても村はバナナ園だった 収穫したバナナを運ぶ
バナナビールはこうして造る バナナにも様々な種類がある
ムトワンブの子供たち 道で出会った娘さんと
ムトワンブの学校で。子供たちはとても元気だ バオバブの木


 ウジャマーの精神

 タンザニアの初代大統領ニエレレは社会主義のもと様々な政策を行ったが、その中で最も素晴らしく今でも国民に尊ばれている政策が「ウジャマー(家族主義)」と呼ばれるもので、全ての民族が家族のようにお互いを尊重しあって共に生きていこうというものだ。タンザニアには約120の部族がいる。マサイ、チャガ、パレ、マコンレー、メルー、タンガ、etc.
 生活習慣も文化も言葉も違う120種類の彼らがこのムトワンブの町には共存している。彼らをつないでいるのは共通の言語、スワヒリ語だ。

 長い長い歴史の中で、普通は単一部族でしか集落を作らないというアフリカの大地に、ひとつの理想郷があった。



  文化の共存

 それぞれの部族が持っている文化がこの町ではそのまま生きている。例えばチャガ族は、生活の多くをバナナに依存している。その最たるものが、地元の人が水の代わりに飲むというバナナビールの製造。バナナでビール!?

 初めは想像できなかったけれど、飲んでみたらネパールのチャンのようなもので淡白であっさりとしていた。アルコール分は2%ということで、子供もこれを飲むらしい。ムトワンブの町には約30種のバナナの木がある。私達が食べているような果物としてのバナナはもちろん、料理用(煮たり、揚げたり)バナナもあればビール用バナナもある。この町のバナナは有名で、一日1000房以上のバナナの収穫があり、ケニヤへ輸出する大型トラックが行き来していた。バナナの需要は食料としてだけではなく、家の屋根や壁にも使われていた。トイレの壁ももちろんバナナの幹の皮だ。私達が歩いた約7時間、この町はバナナでいっぱいだった。健さん曰く
「一生分のバナナを見たなぁ」
しかしバナナの木のおかげで日差しをさえぎることもできたのだ。

 町角でマサイ族の薬屋にも出会った。彼らの薬は全て自然の木から作られている。葉、幹の皮、根、一本の木のあらゆる部分を使って様々な薬を作っている。ひとつの薬を手にとって、これは何の木から作られているの?と聞くと、先祖代々この木からこの薬を作ると教えられているので木の名前は分からないという。地べたに並べられた薬は30種以上あって、ノドの薬や精力剤、膝痛の薬、マラリヤの薬、etc.

 健さんはノドの薬を飲んでみた。すごく辛い様子だが、ノドの痛みもついでに忘れられたようであった。



 灌漑

 この町が発展した大きな理由のひとつが灌漑だ。ンゴロンゴロの高地の森から引いた水の恩恵を受けて、バナナ園には縦横無尽に水路が走っている。高地からマニヤラ湖への緩やかな傾斜を利用して自然に水が流れるようになっているのだ。更にこの水を利用してこの町には水道が引かれていて、10軒ごとにひとつの蛇口を共有している。部族は関係なしに、10軒でひとつの隣組のような組織がうまくできあがっていた。



 バオバブの木の下で

 町で一番高い丘の上に、推定樹齢2500年という大きな一本のバオバブの木が立っていた。町を見下ろすかのように立っているこの木は、ここでとても重要な役割をしているようだ。人はこの木の下に集まり、話をし、物事を決める。日差しの強いこの土地で、大きなバオバブの木の下には気持ちの良い日陰ができるのだ。そして、マサイのように埋葬習慣の無い人たちは死んだ人をこの木の下に葬るという。チベットの鳥葬のように自然に任せ、動物が食し、木の栄養分となる。全てはバオバブの木の下から生まれ、この木へと還っていく。



 カルチャーツアーの意味

 120もの部族がお互いを尊重しあって共存しているムトワンブの町は、極めて珍しい土地でとても興味深い。人々の外人への接し方はとても自然でフレンドリーだ。チベットやネパール等の子供のように、観光客に対して「マネー、マネー」と言ってこない。地元出身の20代の若者達ガイドがそうさせていないのだ。お金をダイレクトに子供達には渡さず、学校の物を買って、ノートや鉛筆を子供達に与える。カルチャーツアーでの収入は、教育や病院、村の発展に使われる。この町の進学率の高さには驚かされた。80%が大学や専門学校などへ進学しているという。

 そして私達が会ったこの町の若者達の全て(皆違う部族だ)が
「I like this village.」
と迷わず言った。お互いを尊重しあい、様々なアイデアを吸収して、より良い生活スタイルを生むこの理想郷に住んでしまったら、もう他の地には住めないと口をそろえた。

「地球と出会う体感エコツアー〜タンザニア編〜」 (NHK BS-h)

2003年3月3日
谷口ケイ