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野口健、エコツアーを旅する
―小笠原編 3―




「空港建設予定地で感じたこと」

 翌日は、空港建設予定地を始め、トレッキングツアーを経験する。2357人(平成14年4月1日現在)が暮らす小笠原には、ダイビングショップや宿泊施設といった観光業以外に産業が存在せず、後は公共事業に従事するか、公務員で構成されている。小笠原へのアクセスは東京と父島を結ぶ定期船「おがさわら丸」しかなく片道で25時間半もかかることもあり、年間の観光客は約2万人と非常に少ない。そのため特に観光業や公共事業に従事する人たちにとって空港建設は切なる願いでもあった。

 小笠原では以前から何度か空港建設の予定地があがっていたが、今回見学したのは青島知事時代に決まった父島にある建設予定地であった。眼前には山々が連なり、予定地の下にはダムも見える。ダムがあるということは、そこに水源地があるということだ。時雨山という名前の山があり、名前の通り、その山があるから雨が降り、水源地として機能しているという。建設計画は甚だスケールの大きなもので、1000億円をかけて、山を削り、その削った土砂で埋めていくというもの。

 山田氏に案内されて、その地に立った時、しきりに「都は本当にここに空港を作ろうとしたんですか!」と繰り返していた。その時の感想を後に聞いた際に野口は「ありえないことがありえてしまう怖さ」について語ってくれた。野口は2002年(平成14年)の7月に、茨城県の「ふじみ湖」というエメラルドグリーンの美しい湖を案内されている。その際に、水を全て抜いてゴミの最終処分所を作るという計画を聞かされた。眼前に広がる美しい光景を見ながら野口は「まさかな」と思ったという。その理由は当時、マスコミが随分と問題にしていたことや、地主と業者と行政の間の談合話が公になっていたことなどから察してのことである。

 しかしその思惑ははずれ、市長は「決まったことは変えられない」の一言で、工事に着工してしまう。その時に野口は「ありえないことがありえてしまう怖さ」について痛感したという。空港建設は石原都知事が貴重な小笠原の自然を守るために凍結を決めたが、もし東京都に財政的余裕があり、石原都知事ではなく別な人が知事をしていたら、この一見するとありえないような計画が、ありえたかも知れない。空港建設予定地をエコツアーとしている観光業者はないが、野口が山田氏にしきりに「これはエコツアーのコースに入れるべきで、この建設予定地だった場所には固有種が何種類、天然記念物がいくつあるのか、といったことも盛り込みながら説明するべきだ」と言っていたのが印象的である。

 その後、トレッキングツアーでタコノキ、マルハチ、ヘゴ、ムニンツツジなどあげればきりがないほどの固有種の説明や、アカギという移入種についての説明があった。アカギは非常に生命力が強く高く伸びるため、その周りには他の植物が育たない。そのためアカギは伐採されている。それによって小笠原固有の植物が守られるのである。



2003年8月23日
文責:小林元喜