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野口健、エコツアーを旅する
―小笠原編 4―




「最後に」

 今回、筆者が野口と同行して興味深かったのは、彼の多弁さと発想のユニークさだった。ちょっと黙っていたかと思うと、ある時、マシンガンのように喋りだす。世界各地を実際に自らの足で歩き、蓄積された知識と経験が、ある時にまるでばらばらなパズルが一つの形を成すように「ぱっと」構築されていくのではないかと筆者は思っている。
 最後にその一部分を紹介してこの稿を閉じたい。

 「小笠原に限らず、自然を利用して生計を立てている人たち、つまり観光業者と自然保護の対立点は、どこも共通している。それは『環境を守ることによって自分たちの利益が冒されるのではないか』ということ。でもそもそもおかしな話で、自然が破壊されてしまったら、元も子もない。でも自然保護のために既得権益が侵されることを異様に恐れる。
タンザニアもガラパコスもそのような歴史をくぐり抜けて、今はエコツアーの先進地として変貌を遂げた。そして自然を守ることによって利益を得ている。その方向転換の根幹にあるのは、地元の人間に対して理解を深めることに力を入れているということ。『徹底的に自然を守ることによって、生計を立てることができる』と丁寧に説明し、それを保証するシステムをうまくつくりあげたんだね。いくら綺麗ごとを言っても、食べていけなくてはエコツーリズムは成立しない。

 そしてタンザニアもガラパコスでは、『ガイドになる』ということがその土地の人にとって最も社会的なステイタス、そして収入の面でも保証されている。エコツーリズムはガイドの存在なしには、成立しない。小笠原は植物の固有種は多いけど、ガラパコスのゾウガメやガラパコスペンギンのように説明がなくてもわかりやすくびっくりできる動物とかはいないわけで、ガイドの説明がなければただの草花としか映らない。でもガイドの説明によって、知的好奇心も刺激されるし、そこから歴史とかも見えてきたりする。

 小笠原はまだ始まったばかりだけど、僕が思うのは、ガイドには威厳が必要だと言うこと。威厳というのは深い知識と経験に裏打ちされ、『この人に言われたら納得するよ』という雰囲気を醸し出しているということ。それがなければルールは守られないと思う。今はガイドになるための試験は非常に敷居が低く、その質は本人の努力だけにかかっているという状況で、山田さんは非常に優れた方だったけど、残念ながら周りを見てみると、結構いいかげんな人もいた。

 教育機関を島に作ったり、小笠原高校に海洋コースとか学校の中でガイドを養成できるシステムをつくって『エコの島』としてPRして全国から入学者を募るのも良いと思う。まだまだ小笠原はその存在自体のPRが足りない。綺麗な海やイルカを見るだけだったら、25時間半もかけて小笠原に行くより飛行機でたとえば沖縄とか海外などに行ってしまう。だから徹底的に『エコの島』としてPRして差別化を図るのはどうだろうか。それとガイドの制服を作る。タンザニアでもガラパコスでもガイドはかっこいい制服を着ている。外見も重要だからね。

 あと小笠原は観光産業以外には公務員と、公共事業で成り立っているけど、今後は無駄な道路など作らず、たとえば電線を地中に埋めるとか、コンクリートの壁を島の石を使った景観に即したものにする、といったように『環境型公共事業』をするというのも手だと思う。

 あとルールの厳格化も大事。南島の1日100人という人数制限は実際には混雑時など守られないこともあるらしい。今年のゴールデンウィーク時には実際に206人が上陸したと聞いた。
 こういうことは最初が肝心。国立公園法には罰則規定もあるけど、それを適用してこなかったという歴史があって、今更、ゴミを捨てたから『はい罰金』とは適用できない。このような罠に嵌らないように最初からしっかりとルールを運用することが大切だと思う。

 環境問題、自然保護について、『このままではいけないな』と多くの人が思い始めてはいるけど、まだ日本では、ガラパコス諸島のように『自然を徹底的に保護することによって、生計をたてることができる』という価値観はほとんどなじみがない。日本におけるエコツーリズムの発祥の地・小笠原からどのようなムーブメントを起こせるのか。まずは来年の3月に自然学校を開催して子供達と共に自然との関わり方を考えていきたい。」
 
 野口が今度、どのように小笠原と関わっていくか。そしてどのようなムーブメントを起こしていくのか非常に楽しみだ。



2003年8月23日
文責:小林元喜