富士山から日本を変える
野口健からのメッセージ
野口健ニュース
野口健からのビデオメッセージ
野口健ブログ
掲示板
プロフィール
フォトギャラリー
七大陸制覇まで
講演会の依頼について
雑誌・テレビ出演情報
書籍・ビデオ
サイトマップ
野口健からのメッセージ
野口健、エコツアーを旅する
―小笠原編 2―




「行政主導のエコツーリズムの運用を見る」

 日本国内でもエコツアー自体は小笠原や屋久島などで以前から行われている。しかしこれらは民間が自主的に行っているものであり、法律や条例で定められたものではない。小笠原では2003年の4月から一部の指定地域で日本初の行政主導のエコツーリズムが実施されている。

 指定地域の第一号は、父島列島にある南島と母島の石門地区の二箇所。今回は日程の都合上、父島と南島を訪れた。取材のメインは、南島でどのようにエコツーリズムが実施されているか、ということ。

 ちなみに筆者は石原都知事のオフィシャルサイト (http://www.sensenfukoku.net/)を管理・運営している関係で、昨年、小笠原のエコツーリズムを取材したこともあり、友人の紹介で野口と知り合い、意気投合し、現地での案内などを兼ねて同行することになったのである。

 現地でのガイドは筆者が昨年もお世話になったダイビングサービスKAIZINのオーナー兼環境庁委託自然公園指導員の山田捷夫氏。南島は石灰質の土地が浸食されてできたカルスト地形と地殻変動で再び沈降してできた沈水カルスト地形が広がっており、地球上でイタリアと南島にしかない珍しい景観である。そのため観光客が頻繁に訪れ、「島の植物が踏みしだかれて赤土がむき出しになる」「ラピエと呼ばれる石灰質の奇岩が削られてしまう」といった悪影響が出てきている。さらに人に付着して運ばれた種により移入植物の分布も広がり始めている。にもかかわらず国立公園の監督者である国(環境省)は何の対策も施さなかった。そこで石原都知事がエコツーリズムの導入に踏み切ったのである。現在、南島は1日あたりの最大利用者数100人、ガイド一人が担当する利用者の人数上限は15人、最大利用時間は2時間といったルールが条例で設けられている。


「南島上陸」

 南島への入り口は一箇所。ネムリブカという鮫が多数生息することから通称「鮫池」と呼ばれるエメラルドグリーンの入り江に接岸し、上陸の準備をする。
山田氏は、入島前には衣服や靴に付いた種子、泥を落とすように促した。小笠原諸島といっても島々によってその生態系は異なる。そのため靴底についた他の島の種子が南島へ持ち込まれるとその生態系が崩れてしまう。それを防ぐためにこのようなルールが必要なのだ。

 上陸後は定められたルートを歩く。一面には緑の芝が広がっているが、右手には剥き出しになった赤土が痛々しく点在しており、その上にネットが被せてある。この島の芝はこの島にしか存在しない固有種である。しかし観光客によって踏みしだかれて赤土がむき出しになってしまったため、東京都と林野庁が植生回復のためにネットを張っているという。ただ東京都と林野庁がそれぞれ異なるやり方で、パートをわけて植生回復をしている。所謂「行政の縦割り」の象徴的事例であり、野口が非常に興味深く山田氏の話を聞いていたのが印象的だ。

 その後、南島の中央に位置する扇池が眼前に広がると、その美しさに野口を含めスタッフ一同が歓声をあげた。海岸では夜になるとアオウミガメが産卵するため、砂浜のそこかしこにその足跡がある。更に砂浜のところどころに約千年前に絶滅したヒロベソカタマイマイという固有種の半化石が落ちている。以前はヒロベソカタマイマイの貝殻が浜を埋めるほど存在していたが、観光客が珍しいからお土産にと持ち帰ってしまい、数が激減している。しかし数年前から貝殻を持ち帰った人に対して、送り返してくれるよう呼びかけたことにより、いくつかの貝殻が再び海岸に戻ってきたという。

 その後、稜線へと登り、カツオドリやオナガミズナギドリなどの海鳥や父島で個体数が激減しているオガサワラアザミやツルワダン、更にまだ進化の途中で、島によってその大きさや形が異なる「オオハマボッス」という固有種の説明を受ける。野口はこの時の経験が非常に面白かったようだ。
「小笠原は固有種や天然記念物の宝庫だけど、一見すると何の変哲もない草花で、そのままじゃ見過ごしてしまう。だけどガイドの説明があると、ただの草花が急に意味や魅力を帯びてくる。それによって知的興奮が得られるし、さらに自分の中で新たなものの見方、考え方が醸成されていく。エコツアーの要素として『知らないことを知る』というのがあると思うけど、これはその象徴で、非常に面白かった。」


「ガイドの重要性について」

 山田氏は非常に優れたガイドで野口も非常に満足していた。ただ野口は「山田さんは素晴らしいガイドで、他にも素晴らしいガイドもいるけど、それが全てではない」という。山田氏にガイドをしてもらっている間にも他のガイドに連れられ、多くの観光客が上陸していた。中には上陸の人数のルールを守っていないガイドもいる。もちろん小笠原のエコツーリズムは始まったばかりで、素晴らしいガイドも多いが、まだルールの徹底や知識の深さの個人差など改善点があることも否めない。

 小笠原のガイドの認定はガラパコスなどとは大幅に異なり、島の住民として一年間を過ごせば、基本的にさしたる勉強もせずに取得できてしまう。そのためガイドの質は「その人がどれだけ自分で勉強するか」ということにかかってくるのである。これはエコツーリズムの導入の際に観光業者からの反発が相次いだため、東京都がやむをえずとった策である。エコツアーの最大の要であるガイドの養成に関しては、まだまだ課題が多いと筆者は思う。



2003年8月23日
文責:小林元喜