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空港予定地を見学して




 空港建設予定地に案内されたが、その予定地で何度も山田氏に
「都は本当にここに空港を作ろうとしたんですか!」
と聞きなおしていた。それだけ「ありえない」場所だった。

 美しい山間部を削り その両脇の谷底を削った分の土砂で埋め尽くそうとした建設現場。しかも、その森にはいくつもの固有種が生殖し、固有種のムニンツツジの最後の一株が自生しているほどだ。その固有種や天然記念物だらけの森を歩きながら一時はこの貴重な自然を殺してまで飛行場建設へと動いていった背景に
「人のやろうとすることは恐ろしいなぁ〜」
「ここに飛行場を作ろうなんてよくもまあ〜そんなバカげたことを考えつくものだ」
と人の愚かさに呆れるやら、怒りを覚えるやら…。
この「ありえない」が「ありえない」じゃないのが日本。このホームページにも何度か紹介している「ふじみ湖」も初めて訪れた時にはその圧倒的な美しさに見とれてしまい
「この湧水湖の水を抜いて産業廃棄物で埋め立てるなんて ありえないだろ!」
と案内してくださった地元の方々に話していたけれど、信じられないことに水抜き工事が着々と進んでいる。

 決まりかけたことをひっくり返すのは勇気がいる。この「ふじみ湖」問題では業者と茨城県、笠間市との間で談合話が浮上したり、天然記念物が生息していることが分かったりと、連日 マスコミの攻撃にさらされながらも、結局は
「一度決定したことは変えられない」
とのこと。やばいと気づきながらも引き返せない弱さ。大人社会では「おかしい」事を堂々と「おかしい!」と言えない風潮がある。やばいと気がつきながらも見てみないふりをする。気がつかないふりをする。これは至る所に氷山が浮かぶのを認識しながらも最短時間での大西洋横断を掲げ、危ないと危機感を抱きながらもそのまま突っ込んでしまい沈没していったタイタニック号となんら変わらない。特に環境問題はその傾向が強い。

 青島都政時代に内定した小笠原空港問題。それを石原都政は計画自体を撤回した。石原都知事と茨城県知事や笠間市長らとの決断能力の違い。そして時代の方向性を読めない政治家が知事や市長になっている茨城県。いやはや、悲劇としかいいようがない。

 人口約2400人弱の小笠原諸島。役所、公共事業、観光ぐらいしか職場のない小笠原諸島では空港建設は公共事業での利益(空港建設費が1000億円と見込まれていた)そして観光客が増えると期待していたのだから当然 地元民からの反発もあった。しかし、小笠原の自然が美しいから人々は訪れたいと感じるわけで、むやみに開発に明け暮れ魅力ない自然になってしまえば、物価の高い日本の海よりも東南アジアの島にでかけたほうがはるかに安上がりだ。実際に国内よりも海外旅行に目が向く人が年々増えている。

 海洋島の生態系は非常にもろい。一度壊れたらなかなか戻らない。確かに空港建設は地元の土建屋からしてみれば大きな公共事業利権だろう。そして一時的には観光客も増えるだろう。しかし、長期的なビジョンで小笠原の自然保護と観光開発のバランスを考えていけば 小笠原諸島にとってプラスよりもマイナスのほうが大きいように思う。小笠原諸島は「特別な場所」なんだから「特別な場所」としての付加価値をつけなければならない。

 いつまでも公共事業に頼っていても限界がある。あんなに小さな島なのにトンネルがあちらこちらにあり、港も沢山作られてきた。小笠原は自然を守りながら、どのようにその別天地たる美しい自然を観光客に伝えていくのか、
「時間をかけてでも小笠原に訪れたい」
と、世界から人々が集まるような環境を目指したほうが遥かに建設的ではないだろうか。



2003年7月23日
野口健