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今後の小笠原諸島のエコツアーの課題など・・・




 今回は3日間しか小笠原諸島に滞在できず父島と南島にしか行けなかった。しかし、3日間なりに精一杯この目で見て歩いた。東京都公認ガイドであり、石原都知事と一緒に日本発の行政主導によるエコツーリズムを立ち上げたときに汗を流した山田氏が我々を案内してくださったため、恵まれた環境の中で限られた時間のわりには多くのことを感じられた。しかし、我々が南島にいる時にも他のガイドがお客さんを案内していたのだが、ろくに説明もせず、一人のガイドで15人までと決められているにもかかわらず平気でオーバーしている団体もいた。今現在はあくまでも自主的なルールであり、違反してもなんら罰則がないわけで、今後の大きな課題として徹底した自然保護システムを明確に作らなければならないだろう。当然、違反者に対するペナルティーが必要だ。率直な感想ではガラパゴスのナチュラリスト・ガイドと比較すれば小笠原の都が認定したガイドのレベルは遥かに低いだろう。しかし、小笠原はまだまだ始まったばかりの制度。これから時間をかけながらもガイド養成に力を入れる必要があるだろう。ガラパゴスではダーウィン研究所がガイド養成に大きな役割を果たしている。そこで小笠原にもそのようなガイドを育てる研究所ができればいい。「ぜひ公共事業を!」と叫ぶのならば環境型公共事業を展開すればいい。小笠原の県立高校に海洋学コースやエコツーリズムコース?などを取り入れるのも方法だろうし、また海洋学などに力を入れている大学(例えば東海大学)に土地を提供し研究所を作らせるのも1つのアイディアだ。

 小笠原はガラパゴス以上にガイドのレベルに左右されやすい。ガラパゴスは説明がなくても見ているだけで怪獣のような生き物が沢山いるわけだから、訪問者は楽しめる。しかし、小笠原の場合は説明を受けないと気がつかない固有植物が多い。ガラパゴスほど派手じゃないがしかし、ガラパゴスに決して劣らない貴重な固有種の宝庫でもある。説明する側の知識、経験によっては楽しめるだろうし、知識のないガイドならばその凄さに気がつかないまま見落として小笠原を後にすることになる。エコツアーとは知らないことを知る楽しさがある。そして「知る」事によって自然の偉大さを感じ、そこから自然保護といったマインドが生まれてくるのだ。

 そして次に景観に対する取り組みだ。電線も地中に埋めればいい。建物の色や形も統一すればいい。そういった景観やガイドの養成にお金をかければいい。そのほうが、無理やりトンネルを掘ったり、ほとんど車の通らないところに道路を作るよりもよっぽど小笠原諸島の将来につながるだろう。それにしても、どうして日本人はこうも景観を重んじないんだろうか。素敵な自然の中に平気で品性を疑うような看板が立ち並ぶのか、理解にくるしむ。

 富士山の麓も県道沿いにズラッとラブホテルの看板が「どうだ!」とばかりに自己主張している姿はなんとも情けない。これでは世界遺産は遥かかなた遠い世界だ。

 以前、三重の北川知事と「熊野古道」を世界遺産にするシンポジウムに同席させて頂いたが北川知事の
「県民の皆さん、熊野古道を世界遺産にするためにはこの辺りを文化圏にしなければならない。熊野古道だけじゃないんですよ!世界からやってくる人たちが熊野古道に辿り着くまでの間に品のない看板が方々に立っていれば、気持ちが冷めてしまう。軽蔑されますよ!」
と力強く訴えていたが、まったくその通りだと思う。小笠原の町は看板こそ少ないものの統一性に欠けたり、平気で廃材のような粗大ごみが人目につくような所に放置されている。もちろん、ガラパゴスではありえない光景だ。

 そして最も重要なのがガイドの存在。小笠原諸島でのエコツーリズムのガイドはやはり小笠原の自然と最も身近な地元の方々が積極的にされるのがいい。エコ・ツアーによって雇用の場も生まれる。そして今では南島と母島の一部を都はエコツーリズムのメッカとして公認ガイド同伴といったルールなどを作ったが、小笠原諸島全体をエコツアーの対象にすることも考えていく必要がある。小笠原諸島でのエコ・ツーリズムは全国からも注目されている。小笠原には自然との関わりあい方を考える土壌がある。島が環境教育の教材といってもいいのかもしれない。小笠原は日本のエコ・ツーリズムのモデルになるだろう。それだけにその責任も求められているものも大きい。

 そして本土と陸続きになったことがない小笠原諸島には固有種や希少種が多く生育し、「東洋のガラパゴス」と呼ばれているのだけれど、人が持ち込んだペットが野良猫となり、また家畜が「野ヤギ」となり多くの固有種が絶滅しかけている。希少生物の保護が大きな課題。しかし、野ヤギや野良猫の駆除にはそれなりにエネルギーとお金がかかる。それならば、例えば猟友会などを招待してバンバン!と駆除していただくのもいわゆるエコツアーなのかもしれない。日本人はヤギを臭いといってなかなか食べないけれど、食べ方によっては以外と美味しかったりする。「移入種を絶対に持ち込まない作戦!」のプロジェクトチームを国なり都が至急に立ち上げるべきだろう。



2003年7月24日
野口健