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乾季のはずが・・・



 今年のヒマラヤはどうもおかしい。李さんの遭難騒ぎから、雪が振りやまない。日増しに雪崩の音が雪の重みのせいか、日に日に「ズシリ」と重くなっていく。湿りけのある重たい雪がその重さに勝てず、ベースキャンプ周辺の壁を流れ落ちる。雪崩の音にすっかり慣れっこになっていた我々も最近の雪崩の音には驚かされることもしばしば。我々が作った行動スケジュールがどんどん後にずれ込み、3日間の休養日のはずが、もうベースキャンプ滞在し、今日で一週間目になる。なかなか、進まない上部での活動にイライラするが、こればっかりはどうしようもない。

 李さんを救助したシェルパ達にいたってはそのままキャンプ2で悪天候に捕まった。いくつかのテントは風や雪で破壊されてしまい、かろうじて残ったテントはポール(テントを支える支柱)を抜き、テントを潰し、その上から石を載せ、飛ばされないようにしたそうだ。そして、彼ら6人は1張の2-3人用テントに身を寄せ合い、一睡もできない永い夜を過ごした。食事も満足にとれないなか、必死の思いでキャンプ2を守ってくれた。

 さらに翌日(4月27日)も、ベースキャンプに避難しようとしたが、大雪の影響で雪崩が多発し、下山も許されずにキャンプ2に閉じ込められてしまった。昨日(4月28日)、なんとか無事にベースキャンプまで下りてきた。さすがのシェルパといえども、その表情からは疲労感が充分に伝わってきた。ゆっくり、休んでください。

 キャンプ2に上がったカメラマンの村口さんからも無線連絡が入らず、大雪の影響でなかなか下山できないでいるのかもしれない。26日にキャンプ2に向かう予定であった僕も、未だにベースキャンプから動けず、天候の回復をひたすら待ちつづけるだけの日々・・・。大幅に遅れているゴミ回収。シェルパの報告ではカトマンズでは、毎日のように雨が降っているとのこと。確か、我々がカトマンズ入りした3月下旬もカトマンズは毎日のように雨が降っていた。乾季であるはずの3〜4月にかけて振りつづける雨に雪。どうもおかしい。ルクラからキャラバンを始めた頃に目にしたシャクナゲの花。咲くのがはやすぎやしないか・・・。

  ある情報からは、インド洋の海水が急激に蒸発し、その湿度がたっぷりと含まれた大気がヒマラヤ地方に流されてきた影響でこのような大雪が発生したとか。はやくも、モンスーン現象の現われなのかもしれない。通常、モンスーン(雨季)は5月下旬からはじまる。温暖化の影響が、四季のサイクルを崩しているのだろうか・・・。

  いずれにせよ、季節はずれの大雪に我々はおおいに戸惑っている。といっても、なにもできるわけじゃないし、相変わらずボケーと口の半開き状態が続いている。朝から雪雪雪。鬱になりそう。3月中旬に屋久島を縦走した際に一度も雨に降られなかった晴れ男が、ここで雪に捕まった。今思えば、あの屋久島は僕が、晴れ男ではなく、ご一緒した大坪千夏さんが晴れ女だったのかも・・・。

 あの楽しかった屋久島の旅もいまでは、ないものねだり。現実に目を向けなければならない。現実はいつでも厳しいね〜。 救助された李さんもしばらく元気がなかったものの、最近ではようやくその勢いが回復。食堂テントに李さんの声がコダマするようになった。隊の建て直しのため、隊員の皆さんが集まり、今後のスケジュールの打ち合わせを行ったが、その後も天候が回復せず、予定通りに進まない。まあ〜これが山。人の都合に自然が合わせてくれるわけがない。あくまでも、我々が自然の移り変わりに合わせなきゃ!焦ってもなにも始まらない。ビスターリ、ビスターリ(ネパール語でゆっくり)です。

 エベレストのチベット側で挑戦している山田君はどうしているのだろうか? また、今井通子さんや、チョオユに挑戦中の三浦雄一郎さん、そしてマナスルに挑戦している小西博文さん。この大雪の影響がどこまで広がっているのか。人のことを心配している余裕などないが、やはり気になるものです。

 ベースキャンプから身動きとれず、寒さにいじめられているときの、心の支えはなんといっても、「カキコミひろば」の存在。毎朝、そして就寝前は必ず「カキコミひろば」に目を通しています。驚くほど、たくさんの方々からのメッセージが寄せられ、その1つ1つをじっくりと時間をかけて読むのが僕の日課です。初めての方もどうぞ、「カキコミひろば」にご意見お寄せください。

 そして、今日は、新しい仲間がベースキャンプにやってきました。谷口けいさんです。高畑隊員のアドベンチャレースの仲間で、立派な登山家です。八ヶ岳に登山中に氷の塊が頭に落ちてきてしまい、頭をバッサリと割ってしまう大けがをしたにも関わらず、翌週には、また八ヶ岳に登ってしまうほどのタフな女性。僕の常識を超えていますが、そんな強力な助っ人が今日、ベースキャンプに合流しました。男だけの窒息しそうな我が隊にやっと華が加わりました。男だけの世界はもううんざり。男女そろって、はじめて健全な社会が生まれるんだと、改めて発見しました!

 明日、天候が回復することを祈りながら、冷え切った寝袋に入ります。

2002年4月29日
野口健