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八ヶ岳大縦走 大石日記
 

 「南八ヶ岳全山縦走? 僕は無理ですよ。今日の赤岳だけでバテバテなんだから」
 9月1日に赤岳に登った時に、野口さんから提案された南八ヶ岳の縦走プランを私は、速攻で断っていた。

  ところが翌日、野口さんのブログを見てみると。
 『握手して「一緒にやろうぜ!」と相成ったわけです。』
 などと書かれている……。おい!
しかもファンの方からは、「大石さんもがんばって下さい」とのコメント。
い、行くしかないのか……。これこそ、ネット社会のプレッシャー。ブラックだ。
なにか社会の縮図を見た気分で、僕は今回の山行きに強制参加させられることになったのだった。

 前夜、一足早く、入山口のグリーンロッジで仮眠をしていると、深夜に野口さんがフラフラの姿で到着。遠方で講演会があり、その足で、ここまで来たとのこと。
こんな疲労していて、明日本当に歩けるの?

 翌朝、歩きはじめても野口さんはノロノロ歩行。相当に仕事の疲れがきている感じ。
それでもなんとか最初のピーク編笠山に登頂。計画では、あと権現、赤岳、横岳、硫黄、根石、天狗岳と全7山を登る予定だたのだけれど、まあ、ここで十分でしょう。そんな風に考えていると
「七つ揃ってひとつですから」
などと、隣でつぶやく野口さん。どっかで聞いた言葉だな。あっ、7大陸最高を目指していたときのキメのフレーズだ。でも、もう、あれから10年くらいたってますからねぇ。体力的にもうここで限界でしょう。
それでも引き返す気配はまったくない。「早くしろよ!行くぞ大石!!先は長いぞ」


横岳へ トボトボと歩く まだまだ先は遠い

 ここから先、野口さんは、絶好調状態となった。天狗岳に続く稜線の上で、もう止まらない。勢いが止まらない。は、早すぎて、早すぎて……、聞き取れない。べチャチャ、ベラベラ、ベチャクチャ。べラべ〜ラ。そう、おしゃべりの勢いが止まらなくなってしまったのです。
「いやー、講演会がない日に登山! 開放的でいいなあ」
などと言っているが、講演会以上に喋りまくっている。鳥も止まらぬ細い岩稜の上で、鳥がびっくりするほどのマシンガントーク。
不思議なもので、話を聞いていと時間を忘れ、一気に赤岳山頂までついてしまった。まだ昼にもなっていない。

赤岳山頂にて

 前回、赤岳に登頂したときには、雲でほとんど視界が利かなかった。でも今日は、北アルプス、中央アルプス、南アルプス、と、日本の名だたる名峰群が、くっきりと連なって見える。この風景はヤバイ。
その山容があまりに壮大で、つい言ってしまった。
「ここを縦走して、日本海から太平洋まで踏破できたら凄いですね。8日間くらいで駆け抜けるトランス・アルプス・ジャパンっていう登山スタイルもあるみたいですよ」
すると、野口さんが「いいね、やろうよ、それ! 一緒にやろうよ」。
そして、私が「いいですねぇ〜」。
言ってからシマッタ! と思った。野口さんは、ニカニカの笑顔だ。
この人は、言ったことを絶対に遂行する。ということは、トランス・アルプス・ジャパンやるってこと!?

 そんな大計画は体力的にできるはずがない。その証拠に、硫黄岳を過ぎたあたりから僕がバテはじめた。悔しいことに野口さんはまったく平気そうだ。ほうほうの体で、最後のピーク天狗岳に着くと、山頂で野口さんが言った。
「西天狗岳まで行こうよ! まあ15分もかかんないだろう」
「マ、マジですか……。疲れてないの??」
野口さんは完全に山モードのスイッチが入ってしまっている。
  西天狗に着くと、夕暮れが近づいていた。1ヶ月前、赤岳に登ったときよりも確実に、日の入りが早くなっていた。眼下の森は、わずかに紅葉がはじまっている。
  目をあげると、今朝登頂した編笠山が、いくつものピークのむこうに見えた。
  「登山っていうより、長い旅をしてここまで来たって感じだな」
  と野口さんが、ぼそりと言った。
  さっきまで喋りまくっていた野口さんとは別人のように渋い声。初秋の山に、後ろ姿が溶け合っていた。
  さらに野口さんは、思慮深い雰囲気で続けた。
  「一日だけで、こんなに町や日常から離れられるから、いいよな」
  確かに、そうかも知れない。だがすでに、僕の頭の中には、「酒」という俗世間のことしか頭にない。ここを下れば、渋ノ湯温泉にビールが待っているのだ。
  しかも、野口さんの事務所の女性スタッフ、ノリちゃんが向かえに来てくれるらしい!
「まあ野口さん、どうでもいいけれど、とにかく早く渋ノ湯、行きましょうよ! 酒が待ってますよ!」 
「だな、オレはワインだ」
「僕は、ビール!、ビール!!、び〜る〜」
  暮れ行く八ヶ岳を背に、渋ノ湯温泉に向け、一気に急坂を駆け下った。素晴らしい歩行リズム。この時(だけ)、ふらりの足並みは完全に揃っていた。

後ろは南アルプス

大石明弘