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FORTUNE MONKEY
ジョザニの森の炭を食べる猿


ザンジバルの野菜は色が濃い 木の上で炭を食べるレッド・コロバス
地面の炭を食べるレッド・コロバス 若葉を食べるレッド・コロバス
ストーンタウンの子供たち レッド・コロバス
世界遺産にもなっているストーンタウン ジョザニの森で活躍するアリさん


 タンザニアの離島、ザンジバル

 3月6〜9日、タンザニアで最後に訪ねたのがザンジバルという島だ。ザンジバルは、経済上の首都ダルエスサラームから飛行機で20分、高速船で2時間のところにあるタンザニアであってタンザニアで無い、一つの独立した土地だ。それまで私達が訪れていたサバンナの大地とは大きく変わり、エメラルドグリーンの海に囲まれた半ジャングルのような島。住民の9割がイスラム教徒で、町を歩いていると時折どこからともなくコーランが聞こえてくる。コーランを聞きながら育った健さんには奇妙に親しみを感じる町だったようだ。そして更にこの町にはアラブの影響が今も生きていた。奴隷貿易と香辛料によって発展したこの島は、アラブに始まり、オランダ、イギリスの支配を受けて、タンザニア本国とは違った歴史が流れていた。

 世界遺産にもなっているこの町の中心地「ストーンタウン」は18世紀に建設されたところに今でも人々が生活しているのだ。ストーンタウンを歩いてみると、北アフリカのアラブの町並みを思わせる白い石造りの3階建て、4階建ての集合住宅街だ。アラブ様式とインド様式の建物が一緒になって町を形成している。建物の壁にはサンゴが混ぜて造られているので風化が激しい。狭い路地に子供達が遊んでいる。そしてこの島にはタンザニア本土のような部族が無い。アラブとの混血、白人との混血、アジアとの混血、etc。彼らは自らをザンジバリアン(ザンジバル人)と呼ぶ。



 ジョザニの森へ

 この島のジャングルのような森で、大森君のムエカ大学時代の友人アリさんが活躍していた。彼はムエカ大学を優等生で卒業した後、故郷の森とそこに住む動物を調査し、紹介し、保護するために全力を注ぎ、そしてそれを本当に楽しんでいた。そんなアリさんに私達はジョザニの森を案内してもらった。

 歩いてみてまず感じたことは、屋久島や西表島の森に似ているな、ということ。野口さんも、サバンナよりこの森を歩くほうが落ち着くなぁとつぶやいていた。ただしこの島はサンゴで成り立っていて、植物が根を張れる土の部分がとても薄い。大きな木が倒れずに成長するために、その根はマングローブのようなタコ足になっていたり、サキシマスオウの木のように板根になっている。そういった形状の根は、倒れないためだけでなくより多くの酸素を吸収するためなのだと言う。そして、土とサンゴの間には豊富な水があり、この森に尽きることの無い生命を供給していた。



 Red Colobus

 ジョザニの森でザンジバル固有種の猿、レッド・コロバスに出会った。20〜30匹の群れで生活する彼らは木から木へ器用に飛び移る。木の枝にうまく飛びつくために彼らの手には親指が無い。「コロバス」は親指が無いという意味なんだそうだ。彼らの特性でもっとも興味深いのは食性だ。

 普通、多くの猿類は最も人間に近い食性を持っていて何でも食べる雑食なのだが、このレッド・コロバスは若葉しか食べないめずらしい猿だ。好物はザンジバルに沢山あるインディアン・アーモンドの木のやわらかい若葉とやわらかい幹の皮。そして驚くべきことにこの猿は、炭を食べる!何で炭なんか食べるのかというと、その意味は二つあり、一つは葉に含まれるフェノールという毒素を吸収しないため。葉しか食べないために、その毒素を分解する酵素が体内で生成できないということらしく、そのままでは病気になって死んでしまうという。もう一つは、消化を助けて食べたものからうまく栄養素を吸収しているのだそうだ。

 葉しか食べない変わった猿の、不思議な知恵だ。

 それにしても、炭なんて自然にあるものではないでしょう?とアリさんに聞いたら、自然の山火事が時々起きてコロバス達にちゃんと木炭を提供しているのだそうだ。山火事にもこんなところに意味があったのだ。更に猿達は、村の人々が炭を作り料理に使っていることをちゃんと知っていて、時々村の家に炭を盗みにやってくるのだそうだ。



 not POISON but FORTUNE

 森の木を食べ、村の炭を盗みにやってくるこのコロバス達を地元の人々は悪い奴、悪魔という意味をこめてPOISON MONKEYと呼んでいたそうだが、動物を愛するアリさんは彼らをFORTUNE MONKEYと呼ぶ。何故なら、このコロバスの存在のおかげで観光客がジョザニの森にやってきてお金を落としてくれるようになったのだ。観光客からの収入を得て、アリさんはこの森の調査や再生、村の人々への教育と補助ができるようになったのだと語ってくれた。

 アリさんのエコロジーもともとザンジバルの森林局の職員として働いていたアリさんは、ムエカ大学で野生動物との関わり合いのことを学び、卒業後様々な試みをザンジバルで実践してきた。森の動植物を調査し、ジョザニの森で働く仲間を教育して森の再生を試み、初めてレッド・コロバスを外に紹介し、そして森と野生動物との共存について村の人々と話をしてきた。

 アリさんに彼の仕事の中で最も重要だと思うことって何?と聞いてみたら、そこに住む人々と話をすることだと言った。野生生物と関わっていく上での80%が人々との関わりなのだと言う。

 そこにあるべき動植物を守り、絶滅の危機にさらされたものを再生し、そしてかつての自然の姿のままに生物と人が共存していくためにはまず、そこに生活する人々と理解し合うことから全ては始まる。何故木を切ってはいけないのかを説いたり、観光客が彼らにもたらすものについて話し、そして彼らの意見を尊重して全てを禁止はしない。極端な政策は反感にしかならないのだ。

 アリさんはローカルの人々と何度も何度も話し合ってきたという。初めのうちはなかなか理解してもらえず、辛いときを過ごしてきたようだが、辛抱強い彼の行為が今は実っているのを私達は感じた。アリさんとローカルの人々の相互理解があって初めて、自然と人間の共存への第一歩が始まったのだ。極端な政策、禁止、一方的な強制は何ももたらさない。相手(もともとそこに住み、生活を営んできた人)の主張を聞いて、それを理解してからでなければこちらの想いも通じないのだな、と実感した。



 足で歩いて目で見て欲しい

 アリさんはJICAの招待で2ヶ月間日本に滞在して、全国の国立公園を訪ねるという貴重な体験をしていた。タンザニアとは全く違った植物や動物を見たことは彼にとっては新鮮な驚きや発見だったようだ。ただ、日本の国立公園のあり方は彼にとってどう映ったのだろうか。

 タンザニアの国立公園には沢山のレンジャーが存在し、更なる教育を求めてムエカのような大学へ行き、ローカルの人々の村を回っては野生生物との共存について話をしている。日本の国立公園にはどれだけのレンジャーや公認のガイドや森と動物を守る人が存在するのだろうか。アリさんが日本に来るチャンスを与えられたように、日本から世界の国立公園を学びに行くチャンスがもっと与えられたらいいのにと願ってやまない。日本の環境省にはそのようなプログラムがあるのだろうか。

「地球と出会う体感エコツアー〜タンザニア編〜」 (NHK BS-h)

2003年3月8日
谷口ケイ