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野口健・都レンジャー発足最後の準備
−小笠原村に村長の諮問機関を−


 2004年5月23日、野口は定期船「おがさわら丸」に乗り込んだ。4回目となる今回の小笠原訪問の主な目的は、今夏から始まる「東京都レンジャー」制度についての受け入れ態勢作りであった。今回は父島に3泊というスケジュールで、NPOを始めとする民間団体並びに小笠原村役場、林野庁、東京都小笠原支庁といった行政サイドの関係者と会合を行い、森下村長には二度に渡り、村役場の中にエコツーリズムの諮問機関の設立を提案した。 今回の提案の背景には、野口が常々口にしている「エコツーリズムは地元発ではないと本当の意味で成功しない」という想いがある。

「小笠原で始まった日本初の行政主導のエコツーリズムは東京都の主導で行われた。委員会を立ち上げ、僕達民間人が意見をし、それを都がまとめるという形。島民の方からすると、一方的に押し付けられた感を持つだろうし、自分達の作ったものではないから、責任も発生しない。これでは何かあると、『東京都がいけない』ということになってしまう。極言すると、何か事があった場合、責任が自分達に及ぶようなものではないとならない。故に自分達で作ったものでなければならないと思う」

 小笠原には『小笠原エコツーリズム推進委員会』という民間団体がある。小笠原村が2000年に策定した観光振興計画「ブルーダイアモンドプラン」では、基本方針の一つとして「エコツーリズムの推進」が掲げられている。『小笠原エコツーリズム推進委員会』はこの村の基本方針を実現していくための組織として発足した。今年の5月にはマスタープランが完成した。それでも村役場の中に諮問機関の必要性を感じるのは何故だろうか。

「マスタープランは素晴らしい内容だった。やはり小笠原の方々は非常に意識が高い。でもプランにも書いてあったけど、物事を進めていく段階になると、どうしても村役場を始め、東京都、林野庁や環境省といった国、島内外の関連団体、そして島民との連携、合意形成が必要となってくる。民間の委員会だとどうしても、権限の部分で弱いところがあるし、委員会から村役場にあげなければならないといったようにワンステップ手続きが増えることになる。たとえばプランの中に、『環境保全のための財源確保』という項目があり、僕は大賛成なんだけど、これを実現しようとなると、どうしても民間では難しい。またエコツーリズムというのは、そもそも環境保護と地域振興の両面があるわけで、これはまさしく政治・行政の仕事。個性が強い方が多く、民間団体、役所が複雑に絡みあっている状態で、合意形成を図るには、やはり選挙で選ばれた村長がリーダーシップをとるというのが形として最も良いと思う」



小笠原村役場にて森下村長と

 今夏から「東京都レンジャー」が派遣される。様々な方が期待し、また不安にも思っている。中には厳しい管理をするのが役目だと思っている方もいる。去年の4月から始まったエコツーリズムに関しては、東京都と島民の方々のコミュニケーション不足で、いまだにしこりが残っている。故に同じ轍を踏んではならないと野口は「しっかりと都レンジャーの役目やあるべき姿を伝えなければならない」との思いで様々な方に協力を要請している。今回は、これまでの訪問でまだ会うことのできなかった方々に協力を要請した。

「都レンジャーに関しては、この半年間を見ると極めて順調に進んでいる。しかし何でもそうだと思うけど、物事が順調に進んでいる時にこそ、将来的な危機の芽が潜んでいる。そしてそれは予め、見極めて対処しておかないと後からでは修正が難しくなる。最初が肝心だと思う。よく島の方の言う『ボタンの掛け違え』がおきてはならない」


小笠原総合事務所にて国有林課長・川添氏と


NPO法人小笠原自然文化研究所の稲葉氏と


東京都小笠原支庁の方々とミーティング

 小笠原は先日の環境省の『エコツーリズム推進会議』でエコツーリズム推進のモデル地域にも選出された。周知の通り、世界自然遺産候補地にもあげられた。更に今夏からついに環境省のレンジャーも2名、小笠原に派遣されるという。小笠原村、東京都、林野庁、そして環境省、それぞれの立場があり、面子もある。それぞれの主導権争いが起こり、島民の方々が四苦八苦することもないとはいえない。更に複雑になっていくと想像される小笠原の中で「東京都レンジャー」がどのような役割を果たすべきか。最後に聞いてみた。

「当然、保護と利用に関する業務がある。そして行政や民間団体の調整役、エコツーリズム推進の上でのコーディネーターとして役割もある。必然的に自然に関する知識だけではなく、人間関係の構築が必要となる。僕はこれこそが都レンジャーの成功の秘訣だと思っている。だけどあくまでも都レンジャーではなく、環境省のレンジャーでもなく、村がメイン。よく『我々は国や東京都の間に挟まれてつらい』という話を耳にする。力関係ではそうかもしれないけど、誇りというか、『俺達はこうだ』というものが必要。だからこそ今回、森下村長に諮問機関の設立を要請した。また時間を見つけては小笠原に行って、出来る限りのことをしたい」

 思えば筆者が野口に最初に依頼された仕事が小笠原の視察であった。その時のレポートで筆者は文末に「野口が今度、どのように小笠原と関わっていくか。そしてどのようなムーブメントを起こしていくのか非常に楽しみだ」と記した。この時はこのような展開になるとは夢にも思っていなかった。正直に記せば、「体裁よく原稿を終わらせるにはこれが一番」といったような気持ちで書いた一文であった。

 白神山地で石原都知事に東京都独自のレンジャー制度を提言し、それが翌日に記者会見で発表された。その時、野口が興奮気味にかけてきた電話を今でもよく覚えている。
 先日、東京都庁第二庁舎にて、東京都レンジャーの合格者6名の研修会が行われ、野口が講義を行った際に、「日本の中の東京のある場所での活動となるが、そういったスケールではなく、俺達が日本の環境行政を変えるんだ、という気概を持って取り組んで欲しい。これまでの自分もそうだが、初めは恥ずかしくても大きなことを言っているうちに、それが本当に実現できる。100回くらい言っていると段々慣れてきて、1000回も言うと本当に実現する。情熱を持って続けて欲しい」と述べている姿を見て、白神山地からの電話を思い出した。野口の情熱の温度を時間を越えて再認識した。
 今夏には実際に奥多摩地区と小笠原にて「東京都レンジャー」が始動する。環境行政という分野で、物事が自分の行動や意見で実際に動いていく醍醐味を味わった野口が、次になにをするのか。心から楽しみに思っている。


第1回目の小笠原訪問 ガイドの山田氏にレクチャーを受ける


白神山地にて石原都知事と  このとき都レンジャーの発表が行われた


東京都レンジャー特別講義の終了後、メンバーと記念撮影


C・W・ニコル氏と 初のツーショット

2004年6月8日
文責:小林元喜