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地球の流血

スイスの氷河の美しい風景

1940年は1900年より520m氷河が後退
1960年は1039mまで後退
1970年には1318mまで後退
1980年は1619mまで後退
1990年には1900年の位置より1687mも後退した

 アフガニスタンから帰国した三日後、今度はスイスのチューリッヒに向かった。目的は氷河の後退の現場に行くこと。

 ネパールでも地球温暖化の影響で氷河湖決壊洪水が1960年以降14回、3年に一度以上の頻度で氷河湖が溢れ洪水を引き起こしている。温暖化の影響で氷河が後退し、溶け出した大量の水が洪水を招いているのだ。氷河の後退はなにもネパールに限られた現象ではない。南極や北極圏、そしてヨーロッパアルプスにもその被害が拡大しつつある。

 その1つに、スイス東部のサンモリッツ近郊にあるモルテラチェ氷河。登山鉄道の駅から少し歩けば「1900年」の標識がある。当時、モルテラチェ氷河の先端がここまで届いていたことを示している。そこから200メートルほど歩いたら「1920年」の標識があった。つまり20年間に後退したぶんだけ歩いたのだか、そこから10年刻みの標識を歩きながら追っていくと、標識の距離がどんどんと開いていくのが分かる。今現在の氷河の先端は1900年からざっと2000メートルも谷の奥に引っ込んでしまっていた。

 僕が始めてヨーロッパアルプスに挑戦したのが1989年。1990年の標識から氷河の先端まで歩いたが、360メートルの後退。僕のモンブランから始まった7大陸最高峰の挑戦中に360メートルもの氷河が後退していたのだ。

 いつの間に・・・! ショックだった。

 目になかなか見えない地球温暖化は着実に全世界を脅かしている。地元の氷河の研究者は
「このまま温暖化が進めば21世紀の終わりにはスイスアルプスの氷河は現在の5〜10パーセントも残らないだろう」
と指摘した。仮にスイスの氷河がこの世からなくなってしまえば、どのようになってしまうのか想像してみた。5年前まで川に水が流れ、田畑が潤っていたアフガニスタンの村々とこの緑溢れるスイスの恵まれた自然が重なって見え、背筋がゾクッと凍りついた。

 氷河は水源であり、貯水タンクだ。貯水タンクを失えばスイスの恵まれた自然は維持されないだろう。アフガニスタンの砂漠化が今度はスイスで引き起こされる。

 氷河が溶け出した川辺を歩き、先ほどまで心地よく聞こえていた川の音が、帰りには恐ろい音にしか聞こえてこなかった。地球が「血」を流していた。

 アフガニスタンに続き地球温暖化の及ぼす現象を目の当たりにし、その深刻さに思わず目をふさぎたくなった。「知らぬが仏」じゃないが、知る事の恐怖。知ってしまった人間が起こさなければならないアクションとは・・・。

  日本に戻る機内で答えの見えてこないテーマに頭を抱えていた。

2000年、2010年でどこまで氷河の後退を食い止めることができるのだろうか?
2002年8月12日
野口健