「シェルパ基金」 2004年1月15日 野口健


 昨年からスタートしたシェルパ基金も今年に入ってからさらに4人の遺児が加わり合計6名が全寮制の学校に通っている。シェルパ基金はシェルパ(他民族も含む)が山で遭難死したり、また下山後に高度障害の後遺症により死亡したシェルパの遺児達の教育費を負担するものだ。ネパール山岳協会と協力し、全国から応募してくる遺児達の人選を行なってくれている。シェルパ基金でお世話することが決まった遺児の多くは山岳地帯などの地方からカトマンズにやってくる。初めてカトマンズで会うときは彼らの表情はいつも硬い。親を失った悲しみや、また初めて目にする大都会に戸惑い不安になるのだろう。彼らにとっては親元を離れヒマラヤの大自然の中から首都であるカトマンズにやってくること自体が大冒険だ。
 遺児達はシェルパ基金で決められた全寮制の学校に入学することになる。シェルパ基金としてはできるだけ遺族達には現金は渡さない。何故ならば金銭感覚の問題、時にそのお金がチャン代(地酒)に化けることもありうるわけで、決められた全寮制の学校にはシェルパ基金から授業料や教科書代、制服や給食代まで直接振り込む。昨年もそうだったけれど、エベレストから下山してから彼らの元へ訪れるとあの緊張していた表情がどことやら。目をキラキラさせながら、一生懸命 鉛筆片手に先生の講義を聞いている。目が合うと決まってはにかむ。子供がやっと子供らしい顔に戻ったのだと、こちらまで嬉しくなる。毎年、2〜3名ずつ遺児達が学校で教育を受けられるようにシェルパ基金を拡大していきたい。
 ネパール山岳協会の方から「ケンは6人のパパになった」と声をかけられた。笑顔を取り戻した彼らの表情にどれだけ助けられてきただろうか。この夏から富士山の麓で環境学校が始まる。日本の子供達と一緒に自然との共生について考えてみたい。いつかネパールの子供達も僕の環境学校に参加してもらって日本の子供達と共に「夢」を語り合う様子を想像しただけでもワクワクする。いつでもどこでもそうだけれど子供達には夢がある。そんな子供達の夢の手助けができたらいいなぁ〜と思う。大人の役目ってきっとそうゆうことなんだろう。