4月18日早朝、エベレストのアイスフォールで雪崩が発生し16名のシェルパが犠牲(3名は行方不明)となった。これはエベレスト史上最悪の事故。この事故の影響で主要な登山隊が相次いでエベレスト登山を中止し徹底を開始。
ネパールからの連絡によればシェルパ達による登山のボイコットとも言われていますが、何故そのような事態を招いてしまったのか。現場にいない僕には憶測でしか物事を語れないが、一つにはシェルパに対する補償問題だろう。シェルパの大量遭難を受けネパール政府は犠牲となったシェルパへ「約4万円の補償金を用意する」との事でしたがあまりにも少なすぎるだろうと。ネパール政府は今春のエベレスト入山料で約3億円を徴収したとの情報もあり、シェルパ達はその入山料の中からもっと補償してほしいと政府側と意見の対立があったようだ。
シェルパのボイコットにより撤退を余儀なくされた外国人登山家からはシェルパへの批判がでるかもしれない。しかし、僕にはシェルパ達の気持ちがよく分かる。ヒマラヤではシェルパの犠牲が毎年繰り返されている。そして彼らの遺族が手にする補償金もわずかである。僕が2002年にシェルパ基金を立ち上げたのもシェルパへの補償問題に対し充分ではないと感じていたからだ。
16名もの犠牲を出した今回の事故でシェルパ達の憤りが頂点に達したとしても僕には理解できる。
事故を起こしたアイスフォールですが、あの場所での雪崩は例年のこと。3年前に僕がエベレストに挑戦した時にも同じような場所で雪崩、セラックの崩壊を繰り返していた。その度にルートが寸断されフィクスポープや梯子がかけ直された。3年前は雪崩が起きたその時に誰もいなかっただけでこれは「運」としか言いようがない。
アイスフォールは「ロシアンルーレットルート」とも呼ばれているだけあって、事故も多い。
雪崩の跡のですが、雪というよりも氷の塊が落ちてくる。
3年前にアイスフォールで雪崩が起きた現場。現場にはラマ教の旗をかけています。今回の雪崩現場もこの辺りだろうと。
そして今回の犠牲者の中に野口隊として活躍してくれたアンカジ・シェルパの名前も。彼には6人の子どもがいて、よくテントの中で僕らに子どもたちの写真を見せては「この子たちのためにも頑張るだ」と嬉しそうに語ってくれた。いつもニコニコ笑顔を絶やさない男で大好きな大好きな男だった。犠牲者リストの名前の中に彼の名前を発見した時は一瞬目の前が暗くなった。今まで一緒にヒマラヤに登ってきたシェルパの犠牲はこれで何人目だあろうかと。エベレスト清掃活動をしてきたシェルパ達の中でももう10人は超えている。
シェルパ基金では犠牲となったシェルパの遺児への教育支援を行ってきていますが、毎年新たな遺児たちをシェルパ基金で受け入れてきました。直接、遺族と関わり続けてきただけにシェルパの遭難死を知らされるたびに胸を抉られる思いです。
今週末、ネパール・カトマンズに向かいます。アンカジ・シェルパの子ども達と面会します。自慢のパパを失った彼らに会うのがとても辛いです。そしてネパール山岳協会のアンツェリン会長とシェルパへの補償のあり方など協議する予定です。シェルパ基金の枠を最大限拡大し僕なりに精一杯対応したいと考えています。
アン・カジ・シェルパ
マナスルに挑戦中のアンカジ・シェルパと谷口けいさん。
マナスルのベースキャンプですが、僕の隣の赤い服を着ているのがアンカジ・シェルパ(左から3番目)です。
つくづく感じるのは僕も含め外国人登山家はシェルパ達に甘え過ぎていたという事です。そして結果的にシェルパ達を追い詰めていたということです。
ネパールからまた報告したいと思います。