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2023年マナスル登山

マナスルに向けて

2023年マナスル登山

2023/09/12

マナスルに向けて

日本を経ってまもなく一ヶ月。カトマンズに一泊だけし翌朝、ヘリでエベレスト街道にあるクムジュン村へ。そこからチュクンリー峰、エベレストBC、ロブチェピークの5800m付近(ハイキャン2泊)ゾンラ峠、ゴーキョピーク、とこのモンスーンの季節の中での高所順応としてはやれる事はやった。

それにしても今回ほど日本を遠くに感じるヒマラヤ遠征は始めて。あの茹だるような酷暑に蝉の鳴き声も遥か彼方。もうどこかにいってしまった。

前半は連日のどしゃ降りに辟易させられたが、しかし、マナスルの悪天候はこんなものではない。「この世の地獄」だと天を仰ぎたくなるほど。

過去、3回、マナスルに挑戦したが、春2回と秋1回。春のシーズンはベースキャンプの地面をたったの一度も見なかった。連日の雪でテントは潰れ、キャンプ2は雪崩に流されて消えていた。

2019年のマナスル遠征では、青空を見たのは僕の記憶では2、3日。

「マナスルは人を食べる山」と表現した登山家もいる程にマナスルは雪崩の山。 

エベレストの時もそうであるように通常はベースキャンプと上部キャンプをアップダウンしながら、少しずつ低酸素に身体を順応させていく。 
キャンプ間を何往復もするのだ。高所登山の基本である。

低酸素に身体を慣らせながら、同時にこれから挑むその山と対峙する貴重な時間でもある。

しかし、マナスルはその「登り降り」という大切な工程をなかなか許してくれない。

雨に霙に雪。ベースキャンプから身動き取れないまま時間が過ぎていくことも。

そして、キャンプ間の登り降りを繰り返すとその分だけ雪崩に遭遇するリスクが高まる。

昨年は最も安全なはずであるベースキャンプに雪崩が襲った。多くのテントが埋まったがその直前に登山隊隊員の多くがベースキャンプを後にしていた。少数のシェルパ隊が撤収の作業を行なっている時に雪崩の爆音にみな、逃げた。「もし、少し前のタイミングで、夜中にこの雪崩がベースキャンプを襲ったいたら多くの犠牲者がでただろう」とその場にいたサンドゥーシェルパ。

過去3回の経験からマナスルは僕が経験したどの山よりも真っ向勝負をさせてもらえなかった。

シェルパも「エベレストよりもマナスルは危ない」とハッキリという。「エベレストよりも難しい」のではなく「エベレストよりも危ない」のである。

そんなマナスル前のエベレスト街道での高所トレーニングはむしろ雨にずぶ濡れになる方がいい。マナスルに向けて少しでも苦痛を体に馴染ませるために。

マナスルに登る為の作戦として可能な限り、直前に他の場所で高所順応をやっておく。

マナスル入りすれば、「登り降り」は極力せず一気に...。これは邪道といえば邪道なのかもしれない。  

エベレストにしろ他の8000mに登ってきた時には「登り降り」を最も大切にしてきたが、マナスルではあまりにリスクが高すぎる。

シェルパ達は最終キャンプであるキャンプ4を設置せず、キャンプ3から一気に山頂を目指そうと提案してきました。しかし、6700m付近のキャンプ3から一気に8164mの山頂を目指すには僕にとってはあまりに遠い。 

それはそれでリスクはある。途中で天候が急変すればキャンプ3まで引き返すのは至難の業だろう。
 
しかし、近年、他の登山隊でもそのスタイルを取り入れるところがあると。

可能な限りベースキャンプより上の滞在時間を減らすという作戦だ。    

もちろん、登山隊によって作戦はそれぞれ。

雪崩のリスクを承知の上で「登り降り」をする隊もあるだろう。何が正しいのか、最後、結果がでてみるまでは誰にも分からない。

ただ一つだけ。
我が隊からは誰1人死なせないこと。これまで50回以上、ヒマラヤに挑戦してきたが、野口隊では隊員、シェルパ共に誰1人犠牲者をだしていない。

長年、僕を支えてくれているシェルパの1人が
「これだけやってきたケンの対で誰も死んでいないのは凄いこと。長年、ヒマラヤで公募隊を続けている隊を見ればわかるでしょ。1人も死者をだしていない隊を探す方が難しい。ラッセルはそうだったかな。公募隊に限らず個人で何度もヒマラヤに挑戦している登山家もシェルパや仲間を失っているケースが多いのはケンもよく知っているはず。
私はエベレストの清掃活動からケンの隊のシェルパだけれど、2000年の1回目のエベレスト清掃で一緒だった36人のシェルパはその後、他の隊で何人死んだと思う?半分近くだよ。ケンはラックをもっているんだよ」と。

清掃隊時代のシェルパの多くが遭難しているのは知ったいた。その内、何人かの遺児たちを僕がやっているシェルパ基金で面倒をみていたからだ。

ただ、僕の場合はラックというよりもただ単に逃げ足が早かっただけだろう。

そして自分の隊で死者を出すのを人一倍恐れていたのだと思う。

シェルパ基金を設立して20年以上。ヒマラヤで遭難したシェルパたちの遺児を預かりカトマンズの全寮制の学校に入学させ、親を失った彼らと向き合い続けたのも大いに影響していると思う。

「誰1人死なせない」これだけは最後まで守りたい。僕の唯一の誇りでもある。
年々、マナスルの状況は厳しくなっている中で、シェルパ達も雪崩の恐ろしさを全身に浴びている。特に昨年の秋のシーズンが酷かったそうだ。

2日ほどしか晴れず雪崩の巣だったと。優秀だった複数のシェルパ達かマナスルで流され犠牲となった。「今年も誰かがやられる」とポツリと小さな声が背後から聞こえた。

エベレスト街道の村々で泊まるロッジの主人に「ケン、今度はどこに登るんだ」に「この後、すぐにマナスルに向かう」と返事すると、まるで「チクタク、チクタク」と時計の音が部屋全体を包み込むような沈黙の時を迎える。

特に若い時にクライミングシェルパをやっていた主人なら尚更にその「チクタク、チクタク」が長くなる。

ゴーキョの定宿の主人は「チクタク、チクタク」の後に言葉を選びながら静かにとても丁寧に「ケン、分かっていると思うけれど天候が悪ければ早く降りることだよ。僕は20年前にフランス隊のシェルパとしてマナスルに行ったけれどキャンプ2は雪に埋まり見つからない。キャンプ2にたどり着くのが精一杯だった。下山中に雪崩に流されて腰の骨と肋骨を何本も折った。だから今でも腰がよくない。マナスルの神様は怖いんだよ」と諭すように話してくれた。

始めて会ったのはちょうど20年前。その頃にマナスルで遭難していたとは知らなかった。そして、確かに姿勢が今でもいつも傾いている。マナスルの後遺症だったのだ。始めて知らされた事実。

過去3回のマナスルの経験から苦手意識を抱いているのかもしれない。時に雪の多い春のマナスルのイメージが強すぎるのかもしれない。

マナスルという存在に向き合う度にまるで冷たく濡れた刃の先端が頸動脈あたりをまるでコンパスが円を描くようにこねくり回しで来る。

また、日本での平和な日常生活の中に於いても、いつも喉の奥に鯛の骨が刺さっているかのような。もう、マナスルはトラウマなのかもしれない。

ただ、なんとか、乗り越えたい。そしてマナスルに「。」を付けマナスルから解放されたい。

エベレスト街道のトレーニングを終えたらカトマンズで五日間、肉体を休め、そしてヘリでマナスルのベースキャンプ入り。

マナスルが今どのような状況なのか分からない。ベースキャンプ入りしてから戦略を練る事になる。何パターンか頭の中でイメージをしながら、最後は現場で「えい!」と決断しなければならない。

もう既にヒリヒリしている。この感覚が冒険の最大の醍醐味。

今回のマナスルは日本を発つ前から流れが今ひとつ良くなかった。エベレスト街道のこの3週間は内容がとてもよかった。緑豊かでとても静かな時が流れていた。なんとも心地よい長閑な「気」が流れていた。

今一つピンときていなかった流れを少しこちら側に引き寄せた気もする。日本を早めに脱出したのは正解だった。

しかし、カトマンズに戻ってからは...日本から送った荷物が税関職員のストライキという意味不明な理由でずっと放置され...。どのような手続きをすれば荷物を引き取れるのかも提示されず...。ズルズルと。かなり振り回されましたが、昨日、色々な人の助けからやっと荷物をゲット。

さて、後はマナスル。やれる最大限の事はしたい。後は成るようになるだろうし、また成るようにしかならない。残り数日間、カトマンズで休みながら集中したい。

9月11日 カトマンズにて

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